まだ施設入居時にMRSA保菌検査しているの?につづきます。
質問
そもそも入居前の鼻腔細菌検査をしてもしなくても、介護施設内にはMRSA保菌者がたくさんいる、という実態はわかりました。また、MRSA保菌者に対する特別な対応も不要、ということもわかりました。
それでは、介護施設内ではどんな対策が有用でしょうか?
それでは、施設内でのMRSA対策には何か有用なものはあるのでしょうか?
質の高い論文検索が可能なPMCQ *1 で検索してみました。検索用語は"methicillin-resistant S. aureus nursing home"です。
検索結果はかなり少なく、よく絞りこまれたようでした。めぼしいものをいくつか、かい摘んでみたいと思います。
メタ分析(Hughes, 2013年) *2
研究の概要
高齢者介護施設の入居者または職員にMRSA蔓延予防のための予防策を行うと、予防策なしに比べて、MRSA陽性率は低くなるか、について検討したランダム化比較試験のメタ分析。
主な結果
該当する研究は1研究のみ(クラスターランダム化比較試験)でメタ分析はできなかった。この1研究では、12ヶ月の予防策ではMRSA陽性率は低くはならなかった。
やはり、残念ながらこの疑問については、評価に耐えうる質の研究はほとんどないようです。
せっかく1研究あるということなので、その論文を確認しておきます。
クラスターランダム化比較試験(Balswin, 2010年) *3
研究の概要
65歳以上の高齢者介護施設の職員に、2時間の感染対策についての教育セッション(選任された職員にはさらに5時間の追加セッション)および3,6か月後の監査とフィードバックを行うと、感染対策なしに比べて入居者と職員のMRSA陽性率は低くなるか、を検討したクラスターランダム化比較試験。32施設が対象で、16施設ごとのランダム割り付けが行われている。
主な結果
施設入居者793人、職員338人が対象。施設は平均41-42床の規模で、MRSA保菌率は入居者が17%、職員は感染対策群1.1%、対照群6%。
1年後の入居者のMRSA陽性率は、感染対策群 44/234 (19%)、対照群 47/244 (19%)とほぼ同等であった。クラスター調整後の相対危険は 0.99 (95%信頼区間 0.69, 1.42)。
新規の入居者を含めた1年後の時点での施設入居者についての検討では、感染対策群 83/404 (20%)、対照群 67/381 (17%)、クラスター調整後の相対危険は 0.81 (95%信頼区間 0.51, 1.30)とやや感染対策群で低い傾向がみられた。
職員についても、1年後で感染対策群 9/122 (7.3%)、対照群 5/115 (4.3%)と、ほぼ同等という結果であった。
施設では入居者の出入りがあり、単純な比較は難しいと思われますが、研究開始時からの入所者で検討すると、感染対策をしてもしなくても、MRSA陽性率はほぼ同等であった、という結果になっています。
単純にこの教育セッションに意味がなかっただけなのか、それともMRSA対策全般に一般化して意味がないと言えるのか、この研究だけでは定かではありません。
少なくとも、このような感染対策には意味がないだろう、ということが確認されています。
さらにもう少し、調べてみたいと思います。
施設ではMRSAの除菌はしたほうがよいですか? - 地域医療日誌へつづく
*2:Hughes C, Tunney M, Bradley MC. Infection control strategies for preventing the transmission of meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) in nursing homes for older people. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Nov 19;11:CD006354. doi: 10.1002/14651858.CD006354.pub4. Review. PubMed PMID: 24254890.
*3:Baldwin NS, Gilpin DF, Tunney MM, Kearney MP, Crymble L, Cardwell C, Hughes CM. Cluster randomised controlled trial of an infection control education and training intervention programme focusing on meticillin-resistant Staphylococcus aureus in nursing homes for older people. J Hosp Infect. 2010 Sep;76(1):36-41. doi: 10.1016/j.jhin.2010.03.006. Epub 2010 May 7. PubMed PMID: 20451294.