地域医療日誌

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音楽は認知症にどんな効果をもたらすのか

 

 過去記事 音楽で認知症のうつや不安は軽減する - 地域医療日誌 の更新記事です。

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認知症に対する音楽の効果を検討したメタ分析

 認知症に対する、あらゆる種類の音楽的介入を検討したコクランのメタ分析。2017年版が発表されたばかりですが、2018年にも更新されて発表されました。

 2017年版では17研究が採択されていましたが、今回は22研究となっています。

 質の低い研究がほとんどの領域ですが、研究数が多くなり妥当性は高くなっているでしょうか。確認しておきましょう。

メタ分析(Steen, 2018年) *1

研究の概要

 あらゆる種類の認知症の人 *2 に音楽による治療的介入 *3 を行うと、他の治療または音楽による治療なしに比べて、

  1. 感情的安定(QOLやポジティブな感情、表情も含める)
  2. 気分障害やネガティブな感情:うつ
  3. 気分障害やネガティブな感情:不安
  4. 行動障害:攻撃性・激越
  5. 行動障害:全般
  6. 社会的行動
  7. 認知機能
は改善するか *4、を検討したランダム化比較試験のメタ分析。

主な結果

 22研究が基準に該当し、そのうち21研究(890人)の結果をメタ分析として統合。すべてが施設居住者。

  1. 感情的安定:標準化平均差 0.32(95%信頼区間 0.02, 0.62)(9研究, 348人)と音楽的介入群でわずかな改善
  2. うつ:標準化平均差 -0.27(95%信頼区間 -0.45, -0.09)(11研究, 503人)と音楽的介入群でわずかな改善
  3. 不安:標準化平均差 -0.43(95%信頼区間 -0.72, -0.14)(13研究, 478人)と音楽的介入群でわずかな改善
  4. 攻撃性・激越:標準化平均差 -0.07(95%信頼区間 -0.24, 0.10)(14研究, 626人)とほぼ同等
  5. 行動障害全般:標準化平均差 -0.23(95%信頼区間 -0.46, -0.01)(10研究, 442人)と音楽的介入群でわずかな改善
 社会的行動はわずかな改善、認知機能はほぼ同等。有害事象の報告はなかった。
 いずれの評価項目でも概して研究の質は低く、効果を結論付けることはできなかった。

 

わずかな効果はみられた

 この結果からは、介入直後の評価では感情的安定、うつ、不安、行動障害全般はわずかな改善がみられています。

 ただし、介入群と介入なし群との差は偏差値に例えると2~4とごくわずか。差があるといえるかどうか、微妙なものです。

 

 いずれも研究の規模も小さく質も低いため、さらなる研究が必要という段階であり、現時点では認知症に対する音楽的介入には、明確な効果があるとはまだ断言できない、というのが科学的根拠でしょう。

 

 さらに、これらは治療直後の評価についてですが、4週間以上の長期的な治療効果に限定すると、ほとんど差がみられなかった、という結果です。

 

音楽の治療的介入とは

 このメタ分析での「音楽による治療的介入」は、以下のように定義されています。本文から引用します。

We defined therapeutic music-based interventions as: therapy provided by a qualified music therapist, or interventions based on a therapeutic relationship and meeting at least two of the following criteria/indicators:

(a) therapeutic objective which may include communication, relationships, learning, expression, mobilisation and other relevant therapeutic objectives;

(b) music matches individual preferences;

(c) active participation of the people with dementia using musical instruments or singing;

(d) participants had a clinical indication for the intervention or were referred for the intervention by a clinician

 

 認定された音楽療法士による治療だけではなく、4条件のうちの2つ以上を満たすもの、ということとされていますが、治療者との関係性や直接会って実施されることに重きを置いた介入ということが条件となっています。

 ただし、1対1の個別介入だけではなく、グループの介入も含まれています。

 

音楽療法士では効果なし

 それでは音楽療法士による治療では効果が大きくなっているのでしょうか。これも論文では検討されていました。

 音楽療法士の研究のみに限定すると、ほとんどの項目でほぼ同等という結果となり、効果が消失します。唯一、不安についてはわずかな改善がみられた(標準化平均差 -0.19, 95%信頼区間 -0.52, 0.13, 6研究 242人)とありますが、有意差さえありません。

 つまり、認知症に対しては、音楽療法士の介入では効果がみられなかった、という結果になります。

 

新しい評価軸を

 やはり、伝統的な医学的評価軸ではこのような結果になるのでしょう。このような評価軸は、音楽の効果をうまくとらえきれていないのではないと感じています。

 それでは、どのような評価軸をもってとらえればいいのか。ここからがぼくの課題です。

 まだまだ研究が必要でしょう。これからも考えていきます。

 

peatix.com

 

*1:van der Steen JT, Smaling HJ, van der Wouden JC, Bruinsma MS, Scholten RJ, Vink AC. Music-based therapeutic interventions for people with dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 23;7:CD003477. doi: 10.1002/14651858.CD003477.pub4. Review. PubMed PMID: 30033623.

*2:診断基準に照らし合わせない医師の臨床診断を含む

*3:any music-based interventions, either active or receptive, delivered to individuals or groups. We required a minimum of five sessions in order to ensure that a therapeutic intervention could have taken place

*4:このうち社会的行動、認知機能は2次アウトカム。ほかに有害事象も検討されている。

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