地域医療日誌

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嗅覚が低下すると寿命が短くなる?

 味覚が低下すると寿命が短くなる? - 地域医療日誌 のつづきです。

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嗅覚と総死亡の関係

 味覚と認知症の関係を調べていたはずなのに、芋づる式に論文が次々掘り出されてくる始末。(情報提供や示唆していただいた方々、ありがとうございます。)

 情報検索の過程で、嗅覚障害と総死亡の論文も見つけました。こちらも気になりますよね?

 さっそく手にしましたので、ご紹介いたします。

コホート研究(Devanand、2015年) *1

研究の概要

 65歳以上の高齢者のうち、嗅覚テスト(University of Pennsylvania Smell Identification Test (UPSIT)、0-40点のスコア、低値が重い嗅覚障害)で低スコア群では、高スコア群に比べて2年後の総死亡が多いか、を検討した予後に関するコホート研究。

 

主な結果

  平均 4.1年の追跡期間中、349人/1169人 (29.9%) が死亡。

 高齢 (p < 0.001)、男性 (p < 0.001)、UPSIT低スコア (p < 0.001)、認知症と診断 (p < 0.001)で死亡が多い傾向あり。

 UPSIT スコアが1点下がると総死亡のリスクが6.8%増加することがわかった。 *2 この傾向は調整後も変わらなかった。 ((after controlling for age, gender, education, ethnicity, language, modified Charlson medical comorbidity index, dementia, depression, alcohol abuse, head injury, smoking, Body Mass Index, vision and hearing impairment (Hazard Ratio=1.05, 95%CI 1.03 to 1.07, p<0.001)))

 UPSITスコアが最も高い第4四分位に比べて、総死亡のハザード比は以下の通り。

 第1四分位 3.81 (95%CI 2.71 to 5.34)
 第2四分位 1.75 (95%CI 1.23 to 2.50)
 第3四分位 1.58 (95%CI 1.09 to 2.30)

 

嗅覚が最も低下した群では総死亡が3.8倍に

 こちらもちょっと想定外に影響がありそうです。

 40点満点の嗅覚スコアが1点低下するごとに、総死亡は 6.8%増加。嗅覚が最も低下した群(四分位)では、なんと総死亡が 3.8倍に。

 年齢や性別はもちろん、認知症や喫煙だけではなく、視力・聴力低下(まるで感覚の廃用について見通したような交絡因子の調整がなされています)まで調整してもなお、こんな差が出てしまっています。

 

 味覚も嗅覚も自覚はありそうですから、質問するだけでも予後予測になるかもしれません。

 さらに、感覚の劣化をどう抑えていくのか、抑えることに意義があるのか、については、今後の検討に期待といったところでしょうか。

 

 高齢者の五感の確認、さっそく診療に取り入れています。味覚や嗅覚が低下しているという方、案外おられますね。

 味覚や嗅覚を話題にしながら、ふだんの生活やこれからのことを相談するきっかけにしてみようと思います。

 感覚の廃用については、さらに情報検索をつづけようと思います。

 

*1:Devanand DP, Lee S, Manly J, Andrews H, Schupf N, Masurkar A, Stern Y, Mayeux R, Doty RL. Olfactory identification deficits and increased mortality in the community. Ann Neurol. 2015 Sep;78(3):401-11. doi: 10.1002/ana.24447. Epub 2015 Jul 3. PubMed PMID: 26031760; PubMed Central PMCID: PMC4546561.

*2:Hazard Ratio HR = 1.068 per point interval, 95% confidence interval [CI]: 1.053, 1.083, p < 0.001

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