質問
歯磨きでインフルエンザが予防できる、という情報をネットで見ましたが、本当でしょうか?
怪しいネット情報
調べたい疑問を整理(定式化)すると、このようになるでしょう。
健康な人が歯磨きをすると、しない人に比べてインフルエンザの発症が少ないか、という予防に関する疑問
ざっとPubMedで世界の論文を検索してみましたが、該当する論文が見当たりません。ランダム化比較試験やメタ分析などの質の高い研究というよりも、そもそも歯磨きをするとインフルエンザの発症が少なくなるか、という研究自体、報告がなさそうでした。
口腔ケアについては、ひとつ論文が見つかりました。(あとでご紹介します。)
情報の真偽はいかに? ネット情報とやらを確認してみます。
たしかにいろいろな情報が拾えますが、残念ながらもとになる出典・情報源はどこにも書かれていません。信憑性が疑われる情報です。
その中で手がかりとなる情報はこちら。
実際に歯磨きを徹底することでインフルエンザ発症率が10分の1に激減したという報告が奈良県歯科医師会高齢者歯科保健委員会の調査でわかりました。
これだけです。メモのつもりでつぶやきましたが・・・。
“実際に歯磨きを徹底することでインフルエンザ発症率が10分の1に激減したという報告が奈良県歯科医師会高齢者歯科保健委員会の調査でわかりました。” / “歯磨きでインフルエンザの予防をしましょう - スタッフブログ:森歯科医院【滋…” https://t.co/1ZANP36Ht2
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2016年11月27日
早速、「奈良県歯科医師会高齢者歯科保健委員会」で検索してみても、該当する論文は見つけられませんでした。
これほど情報が流れていますので、たいてい出典も見つかることが多いのですが。
もう少し調べてみることにします。
つぶやきがリツイートされてしまったので、一応追記しておきました。
リツイートされていますが、根拠は不確か(情報源がみつかりません)です。
— 地域医療日誌 (@bycomet) 2016年11月27日
口腔ケアの研究がひとつあった
さて、歯磨きではなく口腔ケアについては、めぼしい論文がひとつありましたので、ご紹介しておきます。
ランダム化比較試験(Abe, 2006年) *1
研究の概要
東京都内の自宅に居住し、週1回デイサービスに通う高齢者が、専門家の口腔ケアを受けると、受けない人に比べてインフルエンザの発症は少ないか、を検討した、予防に関するランダム化比較試験。
口腔ケア群では、歯ブラシ、フロス、舌ブラシを使った歯科衛生士の口腔ケアを週1回、6ヶ月間受け、さらにセルフケアの指導を受けた。対照群はとくに指導のないセルフケアのみ。
インフルエンザの診断は、インフルエンザ様症状がみられた人に迅速抗原検査を行い、陽性の場合を診断とした。
主な結果
対象者は216人。そのうち入院や通所困難となったため26人が脱落。
190人のうち、口腔ケア群 98人(平均82歳、女性53人、インフルエンザワクチン接種率 36.7%)、対照群 92人(平均84歳、女性51人、インフルエンザワクチン接種率 42.4%)。
6ヶ月間でのインフルエンザ発症は以下のとおり。
口腔ケア群 1人/98人
対照群 9人/92人
相対危険 0.1(95%信頼区間 0.01, 0.81)
半年間の口腔ケア半年間で1/10?
相対危険 0.1、治療必要数(NNT)にすると11、という結果。ここだけ見ると、大きな効果がみられているようです。
まあ、結果をよく確認すると、インフルエンザの発症が1人対9人と少なく、26人が脱落しているような研究ですから、結論が覆る可能性もあります。効果があるかもしれませんが、これだけではなんとも言えないなあ、というところでしょうか。
デイサービスに通うような80歳前後の高齢者であれば、インフルエンザワクチンとともに口腔ケアも、というのはひとつの選択肢となるでしょう。
とはいっても、現実的には、毎週口腔ケアをしてくれる歯科衛生士がいるかどうか、費用はどうするか、といった問題が残ります。いずれにしても、簡単ではありません。
*1:Abe S, Ishihara K, Adachi M, Sasaki H, Tanaka K, Okuda K. Professional oral care reduces influenza infection in elderly. Arch Gerontol Geriatr. 2006 Sep-Oct;43(2):157-64. PubMed PMID: 16325937.