地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

施設高齢者、血圧をしっかり下げると総死亡1.8倍に

質問

 デイサービスで血圧が180mmHgをこえたら、入浴は中止したほうがよいですか?

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血圧で入浴の可否を判断していいの?

 高齢者の入浴条件を血圧値で尋ねられることがあります。高齢者が利用するデイサービスや施設では、入浴前に血圧測定する習慣になっていることが多いようです。そこで血圧が高いときに、入浴条件が問題となるようです。

 もちろん、体調が悪い場合には入浴を控えるでしょうから、問題となるのは、本人にまったく症状がなく、血圧が高いだけといった場面でしょう。

 普段から血圧が高めで薬で治療している人も、そうでない人のこともあります。

 基準を決めることで、現場で判断したい、ということのようです。血圧値はわかりやすいですから。

 ところで、一律、血圧値で入浴の可否を決めることは、判断として妥当なのでしょうか? 何か科学的な根拠はあるのでしょうか?

 ちょっと調べておきたいと思います。

 

 

高齢者でも血圧をしっかり下げるべき?

HYVET研究

 最近では、高齢者でもしっかり降圧治療を行うべきだ、という論調が強くなっていますが、これはHYVET研究 *1 の影響でしょう。

 このHYVET研究、80歳以上の高齢者に対する降圧薬の最初のエビデンスですが、2008年になって初めて発表されたものです。降圧薬で脳卒中が少なくなるかを検討したランダム化比較試験ですが、総死亡に大きな差(21%)がついてしまったため、研究が途中で中止されています。

脆弱な高齢者は除外されていた

 しかし、HYVET研究の対象者は、最近の脳卒中、心不全、認知症、施設高齢者などは除外されていました。比較的元気な高齢者が対象となっていたのです。その結果を施設高齢者や脆弱な高齢者にあてはめてよいのか、という議論がありました。

 ほかにいくつかの観察研究でも、血圧が低いと総死亡が多くなるという報告があります。

 そこで、介護施設入居者を対象とした研究が行われることになりました。

血圧をしっかり下げると総死亡が多くなる

コホート研究(Benetos, 2015年) *2

研究の概要

 介護施設に入居する高齢者のうち、2剤以上の降圧薬を服用し収縮期血圧130mmHg未満(3日間の自己血圧測定)となっている人は、そうではない人に比べて、2年後の総死亡は少なくなっているかを検討した、予後に関するコホート研究。

 

主な結果

 80歳以上の男女1,127人(平均 87.6歳、女性78.1%)が対象。2剤以上の降圧薬を服用し収縮期血圧130mmHg未満の人(227人)はそうではない人(900人)に比べて総死亡の非調整ハザード比は 1.81(95%信頼区間1.36, 2.41)、調整ハザード比 *31.78(95%信頼区間1.34, 2.37)であった。

 

 介護施設に入居する高齢者のうちで降圧薬2剤以上で収縮期血圧 130mmHg未満までしっかりと血圧を下げた人は、2年間での総死亡が1.8倍多くなっていた、ということです。

 どのような疾患による死亡が多くなっていたのでしょうか。

 心血管疾患死亡(14.5% 対 9.5%)および非心血管疾患死亡(17.6% 対 10.2%)の両者ともに降圧薬2剤以上・収縮期血圧130mmHg未満の群で多くなっていました。心血管疾患死亡では脳卒中、心不全が、非心血管死亡ではがんが多くなっています。

 

 この結果からは、介護施設入居者のような高齢者には、あまりしっかりと降圧をすべきではないだろう、という結論になりそうです。

 まずこの点をおさえながら、先へ進みたいと思います。

 

つづく

血圧低いほうが総死亡1.5倍に - 地域医療日誌

 

 なお、高血圧のエビデンスはこちらによくまとまっていますので、ご活用ください。

【特集】高血圧治療のエビデンス2017 

*1:Beckett NS, Peters R, Fletcher AE, Staessen JA, Liu L, Dumitrascu D, Stoyanovsky V, Antikainen RL, Nikitin Y, Anderson C, Belhani A, Forette F, Rajkumar C, Thijs L, Banya W, Bulpitt CJ; HYVET Study Group. Treatment of hypertension in patients 80 years of age or older. N Engl J Med. 2008 May 1;358(18):1887-98. doi: 10.1056/NEJMoa0801369. Epub 2008 Mar 31. PubMed PMID:18378519.

*2:Benetos A, Labat C, Rossignol P, Fay R, Rolland Y, Valbusa F, Salvi P, Zamboni M, Manckoundia P, Hanon O, Gautier S. Treatment With Multiple Blood Pressure Medications, Achieved Blood Pressure, and Mortality in Older Nursing Home Residents: The PARTAGE Study. JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):989-95. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.8012. PubMed PMID: 25685919.

*3:adjustment for age, sex, and several covariables, including history of heart failure, cancer, and other major CV disease, as well as the Charlson Comorbidity Index score

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