地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

家庭医のほうが退院後の予後がいい

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  総合診療医の役割や診療の質について(ぼくの頭の中だけで)議論がわきおこっています。今回はそんなぼくの中でホットな論文をご紹介します。

 

どの総合診療医がいいのか

 ジェネラリスト、いわゆる総合診療医には、いくつかのタイプに分かれます。

 普段診療しているプライマリ・ケア医(primary care physician; PCP)、入院診療専門のホスピタリスト(hospitalist)、それ以外の総合診療医。

 このうちどのジェネラリストが最もよいのか、というのが今回の論文のメインテーマです。

 

前提となる定義から確認

 こうした論文では、医療環境が異なる場合には用語が何を指しているのか錯綜することもあります。この論文は米国のものですが、まずは定義を論文(後述)から抜き出して示しておきます。

  • primary care physician (PCP): physician billed for the plurality (the largest share) of thepatient’s generalist ambulatory evaluation and management visits during the 12 months preceding the admission
  • hospitalist: a generalist physician who focuses primarily on hospitalized patients
  • Any physician who was neither a hospitalist nor a PCP was considered to be another generalist

 この論文でのプライマリ・ケア医(PCP)とは、入院前12か月にわたり総合的な外来診療を受けていた主治医ですから、総合診療のできる外来主治医、いわゆる家庭医といった位置づけの医師というとになるでしょう。

 ホスピタリストとは、日本ではまだなじみのないコトバかもしれませんが、入院患者を専門にみる総合診療医 *1、となります。

 3番目の医師がPCPでもホスピタリストでもない医師、ということになります。

 わかりやすい定義ではあります。これを前提として、論文をみていきましょう。

後ろ向きコホート研究(Stevens, 2017年) *2

研究の概要

 2013年にメディケア(高齢者の公的医療保険サービス)を利用して上位20の診断名で入院した患者のうち、PCPが入院診療を担当すると、ホスピタリストやそれ以外の医師が担当するのに比べて、専門医への対診、入院期間、7日後、30日後の再入院や30日後の総死亡は少ないか、を検討した、予後についての後ろ向きコホート研究。 

主な結果

 560,651人の入院データを解析(女性59.1%、平均年齢80歳)。主治医はホスピタリスト 59.7%、PCP 14.2%、その他 26.1%。

 ホスピタリストに比べてPCPは3%(相対危険 1.03,  95%信頼区間 1.02, 1.05)、それ以外の医師は6%(相対危険 1.06, 95%信頼区間 1.05, 1.07)多く専門医へ対診。

 入院期間はホスピタリストに比べてPCPは12%(95%信頼区間 1.11, 1.13)、それ以外の医師は6%(95%信頼区間 1.05, 1.07)長かったが、PCPでは自宅退院が14%多かった(95%信頼区間 1.11, 1.17)。

 再入院ではPCPはホスピタリストとほぼ同等(7日後の相対危険 0.98, 95%信頼区間 0.96, 1.01、30日後の相対危険 1.02, 95%信頼区間 0.99, 1.04)であったが、それ以外の医師では多かった(7日後 1.05, 95%信頼区間 1.02, 1.07、30日後 1.04, 95%信頼区間 1.03, 1.06)。

 30日後の総死亡はホスピタリストに比べてPCPで6%少なく(相対危険 0.94, 0.91, 0.97)、それ以外の医師では多かった(相対危険 1.09, 1.07, 1.12)。

 

家庭医では退院後死亡が6%少ない

 結果をまとめます。入院では家庭医が主治医になると、病院総合診療医に比べて、

  • 専門医への対診が3%多い
  • 入院期間が12%長く、自宅退院は14%多い
  • 再入院は同等
  • 30日後の総死亡は6%少ない

 病院総合診療医よりも、家庭医の優位性が示された結果となっております。よく知っている医師が入院治療したほうが、予後がいい、という結論になるでしょう。まあ、もっともな結論ではあります。

 実際には外来でもずっと診療していて、入院しても主治医になる、という仕組みが、無床診療所では難しいという制約もあります。開放病床などを利用するのか、有床診療所や総合診療外来をもつ病院、ということになるでしょうか。

 ぼくの診療環境はそのようになっていませんが、改革すべきなんでしょうね。ちょっと考えてみたいです。

 いずれにせよ、日本の総合診療専門医の在り方にも一石を投じる、インパクトのある結果になっているかと思います。誰も慌てていないようなので、おそらく気づいていないでしょうね。

 

*1:2018年からはじまった日本の専門医制度における総合診療専門医は、こういった医師を育成しようとしているようにみえます。

*2:Stevens JP, Nyweide DJ, Maresh S, Hatfield LA, Howell MD, Landon BE. Comparison of Hospital Resource Use and Outcomes Among Hospitalists, Primary Care Physicians, and Other Generalists. JAMA Intern Med. 2017 Dec 1;177(12):1781-1787. doi: 10.1001/jamainternmed.2017.5824. PubMed PMID: 29131897; PubMed Central PMCID: PMC5820730.

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