地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

百日咳は三種混合の追加で予防を

 

百日咳が増加

 成人の百日咳が増加しています。

 百日咳とは、百日咳菌(Bordetella pertussis)による感染症です。患者の咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる細菌によって感染します(飛まつ感染)。

 7~10日程度の潜伏期間を経て、風邪症状がみられ、徐々に咳が強くなっていきます(カタル期:約2週間)。その後、短い咳が連続的に起こり、咳の最後に大きく息を吸い込み、痰を出しておさまるという症状を繰り返します(痙咳期:約2~3週間)。激しい咳は徐々におさまりますが、時折、発作性の咳がみられます(回復期:2~3週間)。

 乳児の場合、無呼吸発作など重篤になることがあり、生後6か月未満では死に至る危険の高い疾患です。成人では、咳は長期間続きますが、比較的軽い症状で経過することが多く、受診・診断が遅れることがあります。

東京都感染症情報センター » 百日咳 pertussis(whooping cough)

 

 2018年1月より百日咳は国への全数報告疾患となりました。

 東京都の流行状況はこちら。学童期での発症が多くなっています。(報告バイアスかもしれませんが。)

東京都感染症情報センター » 百日咳の流行状況(東京都 2018年)

f:id:cometlog:20180826150558p:plain

 

日本では成人型三種混合ワクチンが未認可 

 海外では成人型三種混合ワクチン(Tdap)が使われていますが、日本ではまだ認可されていません。追加接種には二種混合ワクチンが使用されているため、百日咳については一歳以降の追加接種は行われていないのが現状です。

 したがって、百日咳の抗体価は低下しているものと思われます。

 二種混合ワクチンの代わりに三種混合ワクチンを使用すると、副反応が多くなると言われて敬遠されています。

 そこで、三種混合ワクチンを減量した0.2mL接種することで、副反応を少なくすることができるかどうか検討した、日本人の一つの研究をご紹介します。

 

三種混合ワクチンを減量して接種すると

ランダム化比較試験(Okada, 2010年) *1

研究の概要

 11-18歳の小児に三種混合ワクチン 0.2mLを接種すると、通常の0.5mL接種または二種混合ワクチン 0.1mL接種に比べて有害事象や抗体価は劣るのか、を検討したランダム化比較試験(オープン試験)。

 抗体価は百日咳菌抗体(EIA法)のうち PT *2 -IgG抗体、FHA *3 -IgG抗体にて判定し、10EU/mL以上が陽性。

 

主な結果

 小児555人が対象で、三種混合 0.2mL群 179人、三種混合 0.5mL群 177人、二種混合群 199人。(なお、抗体価の評価は三種混合 0.2mL群 119人、三種混合 0.5mL群 118人、二種混合群 29人で検討されている。)

 発熱については、三種混合 0.2mL群では3.9%に対して、三種混合 0.5mL群では4.0%、二種混合群では4.1%とほぼ同等である。

 局所反応全般については、二種混合群を1とすると、三種混合 0.2mL群では1.13(95%信頼区間 0.97, 1.30)と多い傾向にあり、三種混合 0.5mL群では1.34(95%信頼区間 1.18, 1.53)と多かった。

 抗体価(陽性率、接種前→後)は、三種混合 0.2mL群、三種混合 0.5mL群、二種混合群の順に、
PT 52.1→95%、55.1→95.8%、58.6→58.6%
FHA 85.7→100%、78.8→98.3%、82.8→86.2%

と三種混合ではいずれも抗体価上昇がみられていた。

 

効果は同じで局所反応が少ない可能性

 効果、といってもいわゆる代用のアウトカムである「抗体価の上昇」についてですが、三種混合 0.2mLでも一定の効果はありそうです。

 さらに、有害事象は多くならないということであれば、なおさらよさそうです。

 特に11歳からの二種混合接種の際には、かわりに三種混合ワクチンの接種をご検討ください。

 

*1:Okada K, Komiya T, Yamamoto A, Takahashi M, Kamachi K, Nakano T, Nagai T, Okabe N, Kamiya H, Nakayama T. Safe and effective booster immunization using DTaP in teenagers. Vaccine. 2010 Nov 10;28(48):7626-33. doi: 10.1016/j.vaccine.2010.09.050. Epub 2010 Sep 28. PubMed PMID: 20883738.

*2:Pertussis Toxin: 百日咳毒素

*3:Filamentous Hemagglutinin:繊維状赤血球凝集素

 Copyright © 2003, 2007-2021 地域医療ジャーナル