質問
プロトンポンプ阻害薬を長年飲んでいたほうが、食道がんになりにくくなるのでは?
このような質問を受けました。さっそく検索してみたところ2つのメタ分析が見つかりましたが、相反する結果となっているようにみえます。
まずは、2014年に発表されたメタ分析から。
メタ分析(2014年, Singh) *1
研究の概要
バレット食道のある人がプロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミン受容体阻害薬(H2RA)を服用すると、食道腺がん(OAC)や高度異形成(BO-HGD)が少なくなるかを検討した、介入研究または観察研究のメタ分析。
主な結果
7の観察研究(コホート研究5、症例対照研究2)(2,813人、うちOAC/BO-HGDが317人、PPI服用が84.4%)が該当。
PPIの6研究について。OAC/BO-HGD発症はPPI群では 205人/1775人、PPIなし群では88人/329人。PPI服用でOAC/BO-HGDは71%少ない(調整オッズ比 0.29, 95%信頼区間 0.12, 0.79)。治療必要数は147。2-3年以上の長期服用で発症が少ないとう量反応関係もみられた。
H2RAの2研究(1,352人)については有意差がみられなかった。
PPIで食道腺がん+高度異形成が71%少ない
症例対照研究を含む観察研究を統合したメタ分析とはいえ、バレット食道のあるハイリスクの人がPPIを服用すると、食道腺がん+高度異形成が71%少なくなるという高い効果が確認されています。
しかし、5つのコホート研究では、食道腺がんと高度異形成が区別されずに報告されています。
2つの症例対照研究(1,589人)では食道腺がんの人数が報告されており、食道腺がん 39人、高度異形成 69人となっているようです。
どの程度の食道腺がんであったのか不明確なところが、気になる結果となっています。
もちろん、アウトカムが食道がん発症である点にも注目しておきたいです。
そしてもうひとつはこちら。
メタ分析(2017年, Hu) *2
研究の概要
バレット食道のある人がプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用すると、食道腺がん(EAC)や高度異形成(HGD)が少なくなるかを検討した、ランダム化比較試験または観察研究のメタ分析。
主な結果
9研究(コホート研究5,症例対照研究4)の結果を統合(5712人)。
バレット食道のある人のうちでPPIを服用していると、服用なしに比べて、EACまたはHGDはオッズ比 0.43(95%信頼区間 0.17, 1.08)とほぼ同等であった。
EACまたはHGD発症までの時間(6研究)についても、PPI服用していても、服用なしに比べて、ハザード比 0.61(95%信頼区間 0.28, 1.34)と同等であった。
PPIに効果なし
2014年のメタ分析と結論が変わっています。このメタ分析では、PPIには食道がんや高度異形成の予防効果なし、という結果でした。
やはり、食道がんと高度異形成とは、分けて報告されていませんでした。
結論が変わった理由
採用されている研究を確認してみました。
2014年と2015年に、食道がんや高度異形成が多いという症例対照研究がふたつ発表されていました。
今のところ、バレット食道がある人であっても、PPIで食道がんが予防できるという確証は得られていない、ということになるでしょう。
今後も注視していきたいと思います。
*1:Singh S, Garg SK, Singh PP, Iyer PG, El-Serag HB. Acid-suppressive medications and risk of oesophageal adenocarcinoma in patients with Barrett's oesophagus: a systematic review and meta-analysis. Gut. 2014 Aug;63(8):1229-37. doi: 10.1136/gutjnl-2013-305997. Epub 2013 Nov 12. Review. PubMed PMID: 24221456; PubMed Central PMCID: PMC4199831.
*2:Hu Q, Sun TT, Hong J, Fang JY, Xiong H, Meltzer SJ. Proton Pump Inhibitors Do Not Reduce the Risk of Esophageal Adenocarcinoma in Patients with Barrett's Esophagus: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS One. 2017 Jan 10;12(1):e0169691. doi: 10.1371/journal.pone.0169691. eCollection 2017. PubMed PMID: 28072858; PubMed Central PMCID: PMC5224998.