薬としての音楽
医療と癒しについて、少し調べていきたいと思います。
音楽の癒し効果については、医学論文でよく取り上げられることがあります。ざっと調べてみました。
PubMedのClinical Queries *1 *2を使って、質の高い論文を検索してみます。
検索式 systematic[sb] AND (music)
システマティックレビューの検索式で、507件がヒットしました。このうちで最近のめぼしい研究を拾ってご紹介したいと思います。
まずはこちら、コクラン *3 のメタ分析から。
メタ分析(Bradt, 2013年) *4
研究の概要
手術予定の患者が、音楽療法や「薬としての音楽」介入(music medicine interventions)とともに標準治療をうけると、標準治療のみに比べて、術前の不安は少ないか、を検討したランダム化比較試験・準ランダム化比較試験のメタ分析。
不安の測定については、the State Anxiety scale of the State-
Trait Anxiety Inventory(STAI-S) (Spielberger 1983), visual analogue scales (VAS), numerical rating scales (NRS), the Zung Self-RatingAnxiety Scaleなどのスケールで測定されたものに限定した。
主な結果
26研究(2,051人)の結果を統合。
STAI *5 (13研究、896人):音楽介入群では対照群よりスコア平均差 -5.72点(95%信頼区間 -7.27, -4.17)と不安度は低かった。(対照群の平均スコアは37.63から44.43点。)
STAI以外のスケール(7研究、504人):音楽介入群では対照群より不安度の平均差は -0.60標準偏差(95%信頼区間 -0.9, -0.31)と低かった。
手術前の不安は少なくなるかもしれない
音楽を聞くことで、手術前の不安が少なくなるかもしれない、という結果となっています。
ただし、採用された研究の質は概して低く、とくにマスキングに対する対応がなされていない、という弱点があります。本文にも解釈には十分注意が必要と指摘されています。
確かに、音楽を聞くことの介入をマスキングすることは現実的には難しいうえに、自記式の質問票での不安の評価となっていますから、結果に与える影響は避けられない研究デザインとなっています。
こうした限界があるとはいえ、手術前の不安解消のために音楽をどうぞ、というのは害もなさそうですし、有用な方法に思えます。医療機関での活用を期待したいところです。
つづく
*2:こちらのブログ記事もご参照ください。
*3:How to Use Cochrane Library
*4:Bradt J, Dileo C, Shim M. Music interventions for preoperative anxiety. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 6;(6):CD006908. doi: 10.1002/14651858.CD006908.pub2. Review. PubMed PMID: 23740695.
*5:20-80点、スコアが大きいほうが高い不安度