地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

PSAを用いた前立腺がん検診は有効ですか?

 

 前立腺特異抗原(PSA)検査を用いた前立腺がん検診が行われることがあります。一般的に、腫瘍マーカーによるがん検診は推奨されませんが、PSAについては状況が異なるのでしょうか?

 

日本の学会の見解

 

 参考までに、日本泌尿器科学会がPSAを用いた前立腺がん検診について見解 *1 を示しています。確認しておきましょう。

PSA検査を用いた前立腺がん検診に関する見解(2011年2月10日)

 前立腺特異抗原(prostate specific antigen; PSA)検査を用いた前立腺がん検診は、最新の死亡率低下効果に関する無作為化比較対照試験(RCT)によって、効率よく、確実に死亡率経過効果得られることが証明されました。

<中略>

 最新かつ信頼性の高い研究の全てにおいて、大きな死亡率低下効果が証明されたPSA検診は、その検診効率も良く、他の既存のがん検診との客観的な比較においても、より強く推奨されるがん検診といえます。 

(原文のママ)

 

 いきなり誤字がありますが、確実に死亡率低下効果でしょうか。RCTで証明されたとのことです。詳細はウェブサイトをご覧ください。

 この見解は2011年のもので、その後は更新されていないようです。

 

米国の学会の見解―Choosing wisely *2

 

 次に紹介するのは、米国内科専門医認定機構財団(ABIM)が公表している、米国家庭医療学会(AAFP)の見解です。

13. Don’t routinely screen for prostate cancer using a prostate-specific antigen (PSA) test or digital rectal exam. *3 *4

There is convincing evidence that PSA-based screening leads to substantial over-diagnosis of prostate tumors. Many tumors will not harm patients, while the risks of treatment are significant. Physicians should not offer or order PSA screening unless they are prepared to engage in shared decision making that enables an informed choice by patients.

 

 PSA検診は行ってはならない。日本の学会とは正反対の見解です。

 

 この「Choosing wisely」は適切な医療のために対話を促すことを目的に米国内科専門医認定機構財団が2011年から行っている活動で、各学会が「Things Physicians and Patients Should Question(医師と患者が話し合うべき項目)」を公表しています。

 

 詳細はこちらの本がおすすめです。

 

 尚、新しく追加されたPSA検診の項目は、この本には含まれていません。

 おもしろくなってきました。ここは慎重にいきたいと思います。 

 

2つの代表的なメタ分析

 

 それではここで、健常男性を対象としたPSA検診に関する2つのメタ分析を紹介します。

メタ分析(Djulbegovic, 2010年) *5

  • P▶ 45~80歳の症状のない男性に
  • E▶ PSA検診(一部に直腸診と併用)を行うと
  • C▶ 検診なしに比べて
  • O▶ 前立腺がんの発症、前立腺がん死亡、総死亡は少ないか
  • T▶ 診断、メタ分析

《結果》※※※

6つのランダム化比較試験(対象者数 387,286人)の統合

前立腺癌の発症 相対危険 1.46(95%信頼区間 1.21~1.77)

前立腺癌死亡 相対危険 0.88(95%信頼区間 0.71~1.09)

総死亡 相対危険 0.99(95%信頼区間 0.97~1.01)

f:id:cometlog:20141026010826p:plain

 

 こちらのメタ分析の要約は、一定の質を満たした医学論文の日本語要約を閲覧できるデータベース、CMECジャーナルクラブ *6 にも掲載されています *7

 

 PSA検診によって前立腺がん発症は多くなっていますが、前立腺がん死亡や総死亡はあまり少なくなっていませんでした。

 

 イベント発生数を見てみると、1000人当たりで前立腺がん死亡がせいぜい1人少なくなる程度(95%信頼区間では2人少なくなる~1人多くなるまでの範囲)です。前立腺癌の診断は多くなっても、がん死亡を少なくするまでの効果はない、ということになるでしょう。

 

 もうひとつのメタ分析はコクランです。

メタ分析(Ilic, 2013年) *8

  • P▶ 45~80歳の男性に
  • E▶ PSA検診を行うと
  • C▶ 検診なしと比べて
  • O▶ 前立腺がん死亡、総死亡は少ないか
  • T▶ 診断、メタ分析

《結果》※※※

前立腺がん死亡(4研究、対象者数341,342人) 
リスク比 1.00(95%信頼区間0.96~1.03)

総死亡(5研究、対象者数294,856人) 
リスク比 1.00(95%信頼区間0.86~1.17)

なお、前立腺がんの診断(4研究、対象者数294,856 人)は、リスク比1.3(95%信頼区間1.02~1.65)であった。

 

 こちらも同様の結果です。PSA検診によって、前立腺がんの診断は多くなるが、前立腺がん死亡や総死亡の予防までには至らない、ということでしょう。

 

 日本の学会の見解については検証してみたいところですが、時間のムダになりそうなので、ここまでにしたいと思います。

 

PSAを用いた前立腺がん検診は有効ですか?

検診で前立腺がんの診断は多くなる。

検診しても前立腺がん死亡や総死亡は少なくならず、効果は限定的である。

 

*1:日本泌尿器科学会-The Japanese Urological Association (JUA) PSA検査を用いた前立腺癌検診 - 一般のみなさま向けサイト

*2:Choosing Wisely | An Initiative of the ABIM Foundation

*3:American Academy of Family Physicians. Prostate cancer [Internet]. Leawood (KS): American Academy of Family Physicians; 2012 [cited 2013 Jul 23]. Available from: http://www.aafp.org/patient-care/clinical-recommendations/all/prostate-cancer.html.

*4: U.S. Preventive Services Task Force. Screening for prostate cancer. Rockville (MD): U.S. Preventive Services Task Force. 2012 May. 16 p.

*5:Djulbegovic M, Beyth RJ, Neuberger MM, Stoffs TL, Vieweg J, Djulbegovic B, Dahm P. Screening for prostate cancer: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2010 Sep 14;341:c4543. doi: 10.1136/bmj.c4543. Review. PubMed PMID: 20843937; PubMed Central PMCID: PMC2939952.

*6:CMEC-TV/TOPページ
ここは一部有料サービスですが、厳選された論文を探すときに重宝します。ぜひご活用ください。

*7:CMECジャーナルクラブ編集部.前立腺がん検診は受けたほうがよいのでしょうか? ② CMECジャーナルクラブ 2011-5-16 http://www.cmec.jp/cmec-tv/products/detail.php?product_id=78

*8:Ilic D, Neuberger MM, Djulbegovic M, Dahm P. Screening for prostate cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;1:CD004720. doi: 10.1002/14651858. CD004720.pub3. Review. PubMed PMID: 23440794.

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