地域医療日誌

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低線量では白血病は多くない―日本の疫学調査から

 低線量でも白血病が多いという論文には異論も - 地域医療日誌 につづきます。

 

日本の疫学調査 

 

 放射線影響協会ウェブサイトでの見解には、このようにあります。

日本の調査からいえること

① 日本の低線量放射線の疫学調査では白血病の死亡率は増加していない  当協会が原子力規制委員会原子力規制庁から委託され調査を実施している我が国の放射線作業者約20万人を対象とする平均で14.2年追跡の疫学調査からは、低線量放射線被ばくが白血病の死亡率を増加させるという結果は得られておらず、有意ではないが負の関連となっている。

 

 日本のコホート研究があるようです。偶然、このウェブサイトに報告書が公開されていることを知りました。

放射線影響協会疫学センター » 調査報告書

 

 ここに公開されている報告書を確認しておきましょう。

コホート研究(放射線影響協会, 2015) *1

研究の概要

 放射線従業者中央登録センターに1999年3月末までに放射線業務従事者として登録された日本人男性で生死を追跡できた人を対象に、放射線被曝累積線量が多くなると、一般の日本人成人男性と比べて悪性新生物死亡が多くなるか、を検討した後向きコホート研究。

 調査対象者277,128人(うち女性2,568人)のうち、生死の確認がとれなかった人を除外した211,579人から、観察期間を設定できない人や女性を除いた204,103人が対象。

 個人線量記録は中央登録センターに登録されている年度別線量記録を使用した。

 生死の確認は住民票の写し等による追跡調査を行い、死亡除票が交付されたものを死亡と判断。死因は人口動態調査死亡票の提供を受けて調査を行った。

 

主な結果

 対象集団の観察終了時における平均年齢は55.6歳、平均累積線量は約13.8mSv、平均観察期間は14.2年。

 死者数は20,519人、うち白血病による死亡は209人、悪性新生物(白血病を除く)による死亡が7,929人であった。

 日本人成人男性と比較した標準化死亡比 SMR(95%信頼区間)は以下のとおり。

 全死亡 1.01(0.998, 1.03)
 白血病死亡(慢性リンパ性白血病を除く) 1.11(0.97, 1.28)
 悪性新生物死亡(白血病を除く) 1.04(1.02, 1.04)

 

 死因別累積線量群別の結果を表にまとめた。

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がんは10mSv当たり1.2倍

 白血病死亡は全数では一般集団より多い傾向がみられますが、累積線量別にすると線量が多くなっても白血病死亡が多くならない、負の関係となっています。

 

 実数をみていただくとわかりますが、たいへん少ない発生数のため、幅をもって解釈する必要があるでしょう。数人の変動で結果がくつがえる可能性があります。90%信頼区間が -4.07から3.52 となっており、真の値はその間か、もしかするとその外側にあるかもしれません。

 

 そこで気になるのは、27万人のうち約6万5千人のデータが除外されていることです。住所情報や住民票の写しが得られなかった、とありますが、数人の白血病死亡で結果がくつがえる可能性がある調査で、この影響は甚大です。

 やはり、幅をもって判断する必要があるでしょう。

 

 がんについては、10mSv当たり過剰死亡が1.2倍ということですから、関連はありそうという、矛盾しない結果となっているようです。

 

 この研究でもやはり、交絡因子として喫煙が考慮されていないという、残念な結果となっています。

 

低線量では白血病は多くない―日本の疫学調査から

  • 日本の放射線業務従事者は一般の成人男性に比べて全死亡や白血病死亡はやや多い傾向にあり、がん死亡は4%多い。
  • 低線量では累積線量と白血病死亡は負の関係となっている。
  • 除外されている対象者が多く、喫煙も考慮されていないため、結果はある程度の幅をもってとらえる必要があるかもしれない。

 

*1:公益社団法人 放射線影響協会. 原子力規制委員会原子力規制庁委託調査報告書「低線量放射線による人体への影響に関する疫学的調査(第V次調査、平成22~26年度)
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/report5.pdf

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