地域医療日誌

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タバコを家で吸わないようにしていれば、こどもに影響がないでしょうか?

質問

タバコを家で吸わないようにしていれば、こどもには影響がないですよね?

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受動喫煙の影響は深刻かもしれない

 

 同居家族が喫煙するとこどもの虫歯が多くなるか?日本人の受動喫煙に関する興味深い論文が、BMJ誌に掲載されました。京都大学からの報告です。

コホート研究(Tanaka, 2015年) *1

研究の概要

 2004~2010年に神戸市で生まれた乳幼児76,920人を対象に、生後4か月での同居者の喫煙があると、乳歯の虫歯発生が多くなるか *2 を検討したコホート研究 *3

 調査は乳児健診を利用して実際され、妊娠中の喫煙状況、生後4か月での同居家族の喫煙状況(非喫煙、喫煙者だがこどもから離れて喫煙、喫煙者かつこどもの前でも喫煙)について確認されている。虫歯は生後18か月、3歳時点での評価である。

 

主な結果

 3歳での虫歯は、家族が喫煙しない 14.0%、こどもから離れて喫煙 20.0%、こどもの前で喫煙 27.6%
 傾向スコア(propensity score)にて調整したハザード比は、非喫煙者に比べて、こどもから離れて喫煙 1.46 (95%信頼区間 1.40 to 1.52)、こどもの前で喫煙 2.14 (95%信頼区間1.99 to 2.29)と虫歯が多い。妊婦での喫煙は 1.10 (95%信頼区間 0.97 to 1.25)と虫歯が多い傾向がみられた。 

 

 過去の観察研究から、受動喫煙によって虫歯が多くなるのではないかと疑われています。いろいろな交絡の可能性があり、受動喫煙が直接どの程度虫歯の発生に影響しているのか、判断が難しいようです。

 受動喫煙を減らすことで虫歯が少なくなるか、についてもまだわかっていません。

 そこで、国内の乳児健診でのデータを活用して、受動喫煙と虫歯の関係を検討したコホート研究が行われた、という位置づけになるでしょう。

 1次アウトカムが最初の虫歯発生までの期間となっていますが、虫歯の確認は18か月、3歳で行われているだけですから、実際には虫歯発生数で検討されています。

 

 傾向スコアについては、こちらをご参照ください。

www.bycomet.com

 

 検討された交絡因子は以下のものです。

Potential confounders
Maternal factors • Maternal age at birth • Alcohol consumption during pregnancy • First birth • Multiple birth • Pre-eclampsia • Anaemia • Threatened abortion • Gestation weeks • Caesarean section • Vacuum extraction • Mental status four months post partum
Infant factors • Birth year of child • Sex of child • Nuchal cord • Asphyxia • Jaundice and transfusion • Convulsion • Incubator • Oxygen inhalation • Weight at birth • Height at birth • Head circumference at birth • Chest circumference at birth • Bottle feeding
Other factors • People involved in parenting • Support by family, friends, and neighbours

 

 種々の交絡因子が調整されています。母親の虫歯数なども交絡しそうに思えますが、ここには含まれていないようです。

 

こどもの前で吸っていなくても1.46倍

 同居家族が喫煙していると、こどもの前で喫煙していなくても1.46倍と虫歯が多くなっています。受動喫煙は妊婦での喫煙よりも影響が大きいように見えます。

 受動喫煙が直接どの程度影響しているかわかりませんが、こどもの前で吸っていなくても影響する可能性がある、と考えておいたほうがよいでしょう。

 さらなる研究(介入研究)も期待したいところです。

 

タバコを家で吸わないようにしていれば、こどもに影響がないでしょうか?

  • 受動喫煙と虫歯の関係を検討した日本のコホート研究がある。
  • こどもの前でタバコを吸っていると虫歯が約2倍になる。
  • こどもの前でタバコを吸っていなくても虫歯が約1.5倍となり、何らかの影響があることが示唆された。

 

*1:Tanaka S, Shinzawa M, Tokumasu H, Seto K, Tanaka S, Kawakami K. Secondhand smoke and incidence of dental caries in deciduous teeth among children in Japan: population based retrospective cohort study. BMJ. 2015 Oct 21;351:h5397. doi: 10.1136/bmj.h5397. PubMed PMID: 26489750.

*2:1次アウトカムについては、あえて"The primary outcome was time to the first incidence of caries in deciduous teeth."(最初の虫歯発生までの期間)と記載がある。

*3:コホート研究とは、特定の要因に曝露された集団と曝露されていない集団を一定期間追跡し、病気を発症する頻度を比較することで、特定の要因と病気の発症との関連について検討する観察研究のひとつ。

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