総死亡で検索したいが・・・
胃がん検診が話題になっています *1 胃X線検査は長年行われていますが、効果はどの程度確認されているのでしょうか。
いい機会ですので、調べてみました。
疑問の定式化、しておきましょう。
臨床上の疑問
症状のない健康な成人に、胃がん検診(胃X線検査)を行うと、検診なしに比べて、総死亡は少ないか。(予防、ランダム化比較試験かランダム化比較試験のメタ分析)
検証すべき効果は「総死亡」であるべき *2 、と思うのですが、ここには異論 *3 もあるようなので、胃がん死亡まで含めてもよいかもしれません。
検索してみました。
論文がない
ところが、なかなか見つかりません。二次情報源やPubMed Clinical Queriesを駆使しても、ランダム化比較試験やメタ分析は皆無。
コホート研究や症例対照研究がいくつか見つかっただけでした。
本当にこれだけ?
PubMedのフリーテキスト検索か、日本語の論文検索か、と途方にくれたところで、ツイッターからありがたい助け舟が。
@bycomet 厚労省「がん検診あり方に関する検討会」の資料議事録を読みましょう
その手があったか。厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」ですね。
がん検診のあり方に関する検討会
さっそく行ってみました。随分長いこと検討しているんですね。
資料や議事録が多いですが、めぼしい資料はこちらです。
資料2 有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン(濱島参考人提出資料)(PDF:5,920KB)
資料2のp.3-4に胃X線検査の胃がん死亡減少効果について、まとめられていました。
5件のコホート研究
資料から引用させていただきます。公開されていますので、ぜひ原文をご参照ください。
どれも胃がん死亡を検討しており、胃X線検診群で半減という劇的な効果が複数の研究で報告されています。(有意差なしの研究は1つのみ。)
5つのコホート研究はこちら。
- Inaba S, Hirayama H, Nagata C, Kurisu Y, Takatsuka N, Kawakami N, Shimizu H. Evaluation of a screening program on reduction of gastric cancer mortality in Japan: preliminary results from a cohort study. Prev Med. 1999 Aug;29(2):102-6. PubMed PMID: 10446035.
- Mizoue T, Yoshimura T, Tokui N, Hoshiyama Y, Yatsuya H, Sakata K, Kondo T, Kikuchi S, Toyoshima H, Hayakawa N, Tamakoshi A, Ohno Y, Fujino Y, Kaneko S; Japan Collaborative Cohort Study Group. Prospective study of screening for stomach cancer in Japan. Int J Cancer. 2003 Aug 10;106(1):103-7. PubMed PMID: 12794764.
- Lee KJ, Inoue M, Otani T, Iwasaki M, Sasazuki S, Tsugane S; JPHC Study Group. Gastric cancer screening and subsequent risk of gastric cancer: a large-scale population-based cohort study, with a 13-year follow-up in Japan. Int J Cancer. 2006 May 1;118(9):2315-21. PubMed PMID: 16331632.
- Miyamoto A, Kuriyama S, Nishino Y, Tsubono Y, Nakaya N, Ohmori K, Kurashima K, Shibuya D, Tsuji I. Lower risk of death from gastric cancer among participants of gastric cancer screening in Japan: a population-based cohort study. Prev Med. 2007 Jan;44(1):12-9. Epub 2006 Sep 7. PubMed PMID: 16956654.
- Rosero-Bixby L, Sierra R. X-ray screening seems to reduce gastric cancer mortality by half in a community-controlled trial in Costa Rica. Br J Cancer. 2007 Oct 8;97(7):837-43. Epub 2007 Oct 2. PubMed PMID: 17912238; PubMed Central PMCID: PMC2360405.
5番目のコホート研究のみがコスタリカから。あとは日本の研究です。
海外の二次情報やレビューには、「選択バイアスの可能性が高い」と指摘されています。そもそも検診を受けるような人は健康に対する意識も高く、教育・経済レベルも高く、病気になりにくい、といった論調です。
コホート研究ですから、検診を受けるような人はどうなったか、ということまでしか言及できないという限界があります。(もちろん交絡因子の調整は検討されていますが。)
しかし、選択バイアスだけで半減というのはさすがに説明がつかないでしょうから、相応の効果はあるのでしょう。
残念なのは、ランダム化比較試験が実施されていないこと、総死亡で検討されていないことでしょう。
今後も行われることはないでしょうから、真実が明らかになることはありません。
こちらのまとめもどうぞ。
*1:青森県のがん検診の「見落とし」の報道です。
*2:Penston J. Should we use total mortality rather than cancer specific mortality to judge cancer screening programmes? Yes. BMJ. 2011 Oct 13;343:d6395. doi:10.1136/bmj.d6395. PubMed PMID: 21998347.
*3:Steele RJ, Brewster DH. Should we use total mortality rather than cancer specific mortality to judge cancer screening programmes? No. BMJ. 2011 Oct 13;343:d6397. doi: 10.1136/bmj.d6397. PubMed PMID: 21998348.