地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

50歳からの帯状疱疹予防

 

ついに待望の帯状疱疹ワクチン承認 

 2016年3月、乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」の製造販売承認事項一部変更が承認されております。

 こちらの審議会で承認されたもよう。

薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会審議会開催案内 |厚生労働省

 

 審議会の内容や議事録は「非公開」となっております。

 すでに添付文書が以下のように改訂されております。

効能又は効果 **水痘及び50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防

用法及び用量 本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、通常、その0.5mLを1回皮下に注射する。

用法及び用量に関連する接種上の注意

1. 接種対象者

(略)

(2) **帯状疱疹予防の場合

 50歳以上の者を接種対象者とする。ただし、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者に接種してはならない。(「接種不適当者」、「相互作用」の項参照)

 

 とりあえず、承認されてよかったです。

 承認前の状況やその効果については、2013年にまとめたことがあります。ご参考までにどうぞ。

vaccine.hatenablog.jp

水痘ワクチンで帯状疱疹の予防ができますか?

  • 国内の水痘ワクチンには帯状疱疹予防の適応がない。
  • 高力価ワクチンで帯状疱疹発症が約6割少ないという米国のランダム化比較試験がある。
  • 国内の水痘ワクチンの力価は高力価であり帯状疱疹発症予防効果が期待されるものの、いまだ実証はされていない。
水痘ワクチンで帯状疱疹の予防ができますか? - 予防接種の効果と害

 

 当時はまだ水痘ワクチンの帯状疱疹発症予防効果については実証されていませんでした。

 今回日本ではどのように実証されたのか、ぼくにとっては興味深いところです。せっかくなので確認しておきたいと思います。

 

有効性は公知であった?

 医薬品インタビューフォームの冒頭部分には、帯状疱疹の予防に係る適応について、このように記載されております。要約して引用いたします。

  • 2009 年 11 月に日本皮膚科学会、2010 年 4 月に日本ペインクリニック学会、2012 年 2 月に日本感染症学会から、本剤の帯状疱疹の予防に係る適応の追加を求める要望書が提出された。
  • 第 5 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産流通部会(平成 25 年 10 月 31 日開催)では「開発優先度の高いワクチンについて」が議論され、医療ニーズや疾病負荷などを踏まえ帯状疱疹ワクチンは「予防接種に関する基本的な計画」(平成 26 年 3 月 28 日健発 0328 第 1 号)において、開発優先度の高いワクチンとされた。
  • 「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて (平成 11 年 2 月 1 日付研第 4 号・医薬審第 104 号)」に基づき公知申請 *1 )を行い、「審査専門協議」及び「薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会」で検討、評価された。
  • その結果、本剤のマスターシードを起源とする岡株ワクチンであり、米国、欧州を含む 60 以上の国又は地域で承認されている ZOSTAVAX® と本質的に同じ薬剤であることなどから、帯状疱疹の予防に対する有効性や安全性が医学薬学上公知であると認められ、2016 年 3 月 18 日に「50 歳以上の者に対する帯状疱 疹の予防」に対する「効能・効果」が追加承認された。

 

 「公知申請」によって承認されていました。

 海外ですでに承認されているものと「本質的に同じ薬剤」であり、有効性や安全性が公知であると認められた、というわけです。

 ずっと既知の事実だったわけですね。

 臨床成績のところを見ておきましょう。インタビューフォームから一部引用します。

(2)臨床効果

 本剤を高齢者に接種した場合、50 ~ 69 歳で約 90%、70 歳台で約 85% に水痘・帯状疱疹ウイルスに対する細胞性免疫が上昇したとの報告がある 1)。

<参考>(海外データ) ZOSTAVAX®(帯状疱疹ワクチン)の臨床試験においては、プラセボと比べ 50 ~ 59 歳で 69.8%の帯状疱疹発症に対する予防効果が認められた 5)。

 また、60 歳以上における帯状疱疹ワクチン接種群とプラセボ群の帯状疱疹発症率は、それぞれ 5.42/1,000 人年及び 11.12/1,000 人年、 PHN 発症率はそれぞれ 0.46/1,000 人年及び 1.38/1,000 人年であり、 帯状疱疹発症率及び PHN 発症率は、プラセボ群より有意に低かった (p<0.001)6)。

 

 効果のところは「細胞性免疫が上昇した」という文献 *2 が引用されているだけ。いわゆる、代用のアウトカム研究ですね。

 あとは2つの海外データ *3 でした。

 2012年のランダム化比較試験 *4 は50-59歳の22,439人を対象とした研究です。

 ランダム化比較試験(Oxman, 2005年)は以前ぼくのブログで取り上げたものと同じものです。再掲しておきます。

ランダム化比較試験(Oxman, 2005年) *5

P▶ 水痘の既往があるか米国に30年以上居住している60歳以上の免疫不全のない人に
E▶ Oka/Merck 帯状疱疹ワクチンを接種すると
C▶ プラセボに比べて
O▶ herpes-zoster burden-of-illness score(帯状疱疹の痛みを発症後182日までスコア化して評価、0~1830点の平均値、点数が高いほうがQOL低い)
T▶ 予防、ランダム化比較試験

《結果》※※※
対象者数 38546人、追跡率95%以上、追跡期間平均3.12年
帯状疱疹ワクチン群
帯状疱疹発症 315人/19,254人(5.42/1000人年) BOIスコア 2.21
プラセボ群
帯状疱疹発症 642人/19,247人(11.12/1000人年) BOIスコア 5.68
ワクチン有効性(帯状疱疹BOI) 61.1% (95%信頼区間 51.1–69.1)

一次アウトカムではないが、帯状疱疹後神経痛についても
帯状疱疹ワクチン群 27人/19,254人(0.46/1000人年)
プラセボ群 80人/19,247人(1.38/1000人年)
ワクチン有効性(帯状疱疹後神経痛) 66.5% (95%信頼区間 47.5–79.2)

水痘ワクチンで帯状疱疹の予防ができますか? - 予防接種の効果と害

 こちらも同じ論文です。CMEC-TVから。

CMEC-TV/ 帯状疱疹を予防するには、ワクチンを接種するとよいのでしょうか?

 

 この2つのランダム化比較試験が公知申請で検討されたようです。後者のランダム化比較試験では、まあそれなりに効果がありそうです。

 

メタ分析では半減

 最近、ちょうどいいタイミングでコクランのメタ分析が発表されたようです。アブストラクトだけですが概要はこちら。

メタ分析(Gagliardi, 2016年) *6

研究の概要

 高齢者(平均60歳以上)に帯状疱疹ワクチンを接種すると、プラセボまたは接種なしに比べて帯状疱疹の発症は少ないか、を検討したランダム化比較試験または準ランダム化比較試験のメタ分析。

 

主な結果

 13研究、69,916人が対象。2研究では生ワクチン、3研究では未承認の新しいワクチンが検討されていた。

 3年までの追跡期間では、ワクチン接種群はプラセボまたは未接種群に比べて帯状疱疹の発症が51%少なかった。リスク比 0.49(95%信頼区間 0.43, 0.56)、予防必要数 50。

 有害事象はワクチン接種群のほうが多くみられたが、いずれも軽症から中等症であった。

 

 ワクチンの効果はおよそ半減、といったところでしょうか。50人接種すると1人の帯状疱疹が予防できます。

 これはぜひとも検討したいと思います。

 

*1:公知申請:医薬品(効能追加など)の承認申請において、当該医薬品の有効性 や安全性が医学的に公知であるとして、臨床試験の全部または一部を新たに実施することなく承認申請を行うことができる制度。

*2:1)Takahashi, M. et al.: Vaccine,21(25):3845(2003)

Takahashi M, Okada S, Miyagawa H, Amo K, Yoshikawa K, Asada H, Kamiya H, Torigoe S, Asano Y, Ozaki T, Terada K, Muraki R, Higa K, Iwasaki H, Akiyama M, Takamizawa A, Shiraki K, Yanagi K, Yamanishi K. Enhancement of immunity against VZV by giving live varicella vaccine to the elderly assessed by VZV skin test and IAHA, gpELISA antibody assay. Vaccine. 2003 Sep 8;21(25-26):3845-53. PubMed PMID: 12922118.

*3:5)Schmader K.E. et al:Clin. Infect. Dis., 54:922-928(2012)

6)Oxman, M.N. et al.:N. Eng. J. Med.,352:2271-2284(2005)

*4:Schmader KE, Levin MJ, Gnann JW Jr, McNeil SA, Vesikari T, Betts RF, Keay S, Stek JE, Bundick ND, Su SC, Zhao Y, Li X, Chan IS, Annunziato PW, Parrino J. Efficacy, safety, and tolerability of herpes zoster vaccine in persons aged 50-59 years. Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(7):922-8. doi: 10.1093/cid/cir970. Epub 2012 Jan 30. PubMed PMID: 22291101; PubMed Central PMCID: PMC4542655.

*5:Oxman MN, Levin MJ, Johnson GR, et al; Shingles Prevention Study Group. A vaccine to prevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults. N Engl J Med. 2005 Jun 2;352(22):2271-84. PubMed PMID: 15930418.

*6:Gagliardi AM, Andriolo BN, Torloni MR, Soares BG. Vaccines for preventing herpes zoster in older adults. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Mar 3;3:CD008858. doi: 10.1002/14651858.CD008858.pub3. Review. PubMed PMID: 26937872.

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