あの事件が大きくとりあげられた
今月、ちょっとした事件が巻き起こりました。ディー・エヌ・エー(DeNA)のキュレーションサイト「WELQ(ウェルク)」が内容の信憑性や無断引用について指摘を受けた問題です。
これは、ちょっとした事件でした。
もちろん、出来事自体は事件なのですが、ぼくにとってはこの問題がこれほど大きく取り上げられることになったことが、ちょっとした事件でした。
時代は動いているんだなあ、と。
小さな扱いだったニュースの波紋が、日増しに大きくなっていくのがわかりました。それに呼応するように、運営側があわてて記事やサイト群を非公開化していったようにみえました。
それでもネットを中心に炎上をつづけ、しまいにはDeNA社長と会長がそろって記者会見する、という事態にまで発展しました。
まあ、たしかにひどい内容の記事だったようです。
メディアの姿勢が問われている
それ以上に注目すべきは、テレビ、新聞、雑誌などの各社メディアの反応です。
一例として、朝日新聞の天声人語 *1 から、気になる部分を抜粋したいと思います。
広告収入が上がるなら信憑性は二の次でいい。そんな傾向がネットの世界で強まっているのだろうか。
その後に科学的に実証された話ではないとの断りがあるものの、これで医療情報を名乗るとは、あきれるほかない。
おおむねメディアの反応はこんなものでしょう。いろいろ言いたいことがありますが、ここではひとことだけ。
同類でしょ。
国内の多くのメディアはWELQと同じ問題構造を抱えている、としか思えません。WELQからテレビ、新聞、雑誌に戻ったところで、同じところに行き着くだけでしょう。
情報は間違いも多く、古くなる
日頃から情報収集して感じることは、どんなに信頼ある情報源であっても間違いがある、ということです。
さらに、時間が経てば、古い情報は間違いになることもしばしばおこります。
5.5年で時代遅れということは、50年前の情報がそのままいまだに使える、ということはほとんどないはずです。(この論文 *2 が発表されてから、10年近く経っていますから、今はもっと情報の寿命は短いかもしれません。)
だからこそ、情報を活用するときには、どんな情報であってもよく批判的吟味したほうがよいのです。
情報源がはっきりしているか
誰でも情報の信憑性について検証できるように、引用情報がついていることは必須です。引用情報がなければ、検証のしようがないからです。
学術論文はみな、そのような形式を踏襲することで質を担保しています。
引用情報が明記されていない情報、つまり出どころがわからない情報は、大手メディアであっても信用しないようがよいでしょう。しかし、残念ながらメディアのほとんどは、情報源が明らかにされていません。
出典を明らかにしない情報はよむな。まずこの1点だけで、情報はだいぶしぼられるはず。
— 地域医療日誌 (@bycomet) November 29, 2016
情報も量より質へ
注目されればよい、宣伝になればいい、どんなものでも売れさえすればいい。もうそんな時代はこりごりです。
情報も量より質を追求する時代が、もうすぐ到来するはずです。
医療情報には、とりわけ高い信頼性が求められます。だからこそ、ぼくらの役割があると確信しています。
これからも地道につづけていきたいと思います。
来年もよろしくお願いいたします。
*1:2016年12月6日朝刊 (天声人語)怪しいサイトに肩がこる:朝日新聞デジタル
*2:Shojania KG, Sampson M, Ansari MT, Ji J, Doucette S, Moher D. How quickly do systematic reviews go out of date? A survival analysis. Ann Intern Med. 2007 Aug 21;147(4):224-33. PubMed PMID: 17638714.