地域医療日誌

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歯周病を治療すると心臓病は予防できますか?

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新聞記事は正しい?

 

 2014年6月18日読売新聞で、歯周病に関する記事「怖い歯周病菌、のむと内臓等にダメージ…立証か」この記事を一部引用させていただきながら、進めていきたいと思います。

 

 記事は

歯周病の原因となる細菌をのみ込むと腸内細菌が変化して様々な臓器や組織に炎症を起こすことが、新潟大大学院医歯学総合研究科の山崎和久教授(58)のグループの研究で明らかになった。

という内容です。マウスの実験で立証された内容は、以下の部分です。

歯周病の原因菌の一つをマウスの口に投与したところ、腸内細菌のバランスが崩れ、腸壁の細胞の間に生じた隙間に悪玉菌が侵入した。これによって、悪玉菌の毒素が分解されずに腸から吸収され、血液を通して様々な臓器に広がることが証明された。

 

 記事から読み取れることは、これまでは歯から入ると思われていた細菌が、マウスでは腸から吸収されていた、ということが新たに証明されたことのようです。

 

 この記事の中で気になる部分は、以下のところです。

歯周病が動脈硬化や糖尿病などのリスクを高めることは知られており、口腔内の衛生管理が全身の健康を保つことを裏付ける研究結果として注目されそうだ。

 

 読者にわかりやすくなるように、と記者が配慮したのではないかと思われるこの部分の記載に、残念ながら誤りがありそうです。

 

 この研究からは、歯周病がどのように吸収されるか、ということがわかっただけで、口腔内の衛生管理が全身の健康に役立つかどうかについては、この研究からは何もわかっていないからです。

 

 それでは、口腔内の衛生管理は全身の健康に役立つのでしょうか?

 確認がてら、歯周病と全身の病気、とりわけ心血管疾患が気になるところですので、注目して調べてみました。

 

歯周病があると心臓病が多い

 

 歯周病があると心臓病が多くなるか、に関するメタ分析は多数あります。少し紹介しておきましょう。

メタ分析(Janket, 2003年) *1 

The summary RR was 1.19 (95% CI, 1.08 1.32), indicating a higher risk of future cardiovascular events in individuals with periodontal disease compared with those without. In an analysis stratified to individuals of </=65 years of age, the RR was 1.44 (95% CI, 1.20 to 1.73).

 9のコホート研究を統合したメタ分析です。歯周病があると心血管疾患が1.19倍(95%信頼区間 1.08~1.32)という結果となっています。65歳以下に限定すると1.44倍となります。

 

メタ分析(Khader, 2004年) *2

Subjects with periodontitis had an overall adjusted risk of CHD that was 1.15 times (95% confidence interval [CI]: 1.06 to 1.25; P = 0.001) the risk for healthy subjects.

 こちらは7のコホート研究と4のそれ以外のデザインの研究を統合したメタ分析です。歯周病があると心血管疾患が1.15倍という結果です。

 

メタ分析(Humphrey, 2008年) *3

Summary relative risk estimates for different categories of periodontal disease (including periodontitis, tooth loss, gingivitis, and bone loss) ranged from 1.24 (95% CI 1.01-1.51) to 1.34 (95% CI 1.10-1.63)

 こちらは冠動脈疾患について、7のコホート研究を統合したメタ分析です。歯周病のカテゴリーによって幅があるようですが、歯周病があると冠動脈疾患が1.24~1.34倍という結果です。

 

 この3つのメタ分析からも、歯周病があると心血管疾患が1.2倍程度多くなる、ということは、今のところどうも確からしいようです。

 

歯周病の治療は有効か?

 

 それでは、歯周病の治療をすると、心血管疾患が予防できるのでしょうか?

 調べてみると、いきなり論文が少なくなってしまいます。最近のシステマティック・レビューがひとつありましたので、ご紹介します。

システマティック・レビュー(D'Aiuto, 2013年) *4

 このシステマティック・レビューでは、主に代用のアウトカムであるバイオマーカーについての論文が中心となっています。心血管疾患や死亡をアウトカムとした研究は少ないようです。触れられている部分を本文から引用します。

Cardiovascular mortality/morbidity
To date, no properly sized RCTs have systematically investigated the role of therapeutic periodontal interventions in the prevention of cardiovascular events. Only two trials can be mentioned (Paju et al. 2006, Couper et al. 2008).

 

 何と、まだ適切な規模のランダム化比較試験はひとつもありません。(研究課題になるのでは?)2研究について、本文で触れられています。

Paju et al. (2006) examined 141 individuals with acute non-Q-wave infarction or unstable angina pectoris enrolled in a doubleblind, placebo-controlled study with the use of clarithromycin for 3 months. The average follow-up period reported was of 519 days (1.4 years). The rationale of the study was based on the assumption that antibiotic therapy could impact on the progression of chronic infections including periodontitis and therefore result in a reduction of CVD events rate. Antibiotic therapy however was not beneficial in preventing recurrent cardiovascular events in periodontal patients compared to healthy subjects.

 

 冠動脈疾患のある人に抗菌薬を投与して、心血管疾患が予防できるかを検討したランダム化比較試験でした。もし、抗菌薬投与を歯周病の治療ととらえると、条件には一致する研究ですが、残念ながら効果なし、という結果です。

 

 抗菌薬の選択はクラリスロマイシンでよかったのかどうか、についてはちょっと疑問が残りますが。

 

 ふたつめの研究はこちら。

The second trial is a feasibility multicentre, RCT designed to study effects of periodontal intervention on CVD secondary prevention. Study participants were randomized to either community care or SRP in University settings. Despite being only a feasibility trial, after 1 year of follow-up, no difference was observed in CVD events rate between the community control and the treatment groups (23 versus 24) (Beck et al. 2008).

 

 こちらも心血管疾患にかかった人を対象としたランダム化比較試験です。歯周病はSRP(歯肉縁下スケーリング・ルートプレーニング)による治療を検討していますが、こちらも残念ながら効果はみられていません。

Recently reported in the AHA position paper, we confirm that there is limited evidence on the effects of periodontal therapy on CVD events including myocardial infarction or stroke (Lockhart et al. 2012).

 

 今のところ、歯周病を治療すると心血管疾患が予防できるとする研究はないようです。今後の検討が待たれます。

 

歯周病を治療すると心臓病は予防できますか? 

歯周病があると心血管疾患が1.2倍程度多くなる。

歯周病治療によって心血管疾患が予防できることを証明した研究はない。

 

*1:Janket SJ, Baird AE, Chuang SK, Jones JA. Meta-analysis of periodontal disease and risk of coronary heart disease and stroke. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2003 May;95(5):559-69. PubMed PMID: 12738947.

*2:Khader YS, Albashaireh ZS, Alomari MA. Periodontal diseases and the risk of coronary heart and cerebrovascular diseases: a meta-analysis. J Periodontol. 2004 Aug;75(8):1046-53. Review. PubMed PMID: 15455730.

*3:Humphrey LL, Fu R, Buckley DI, Freeman M, Helfand M. Periodontal disease and coronary heart disease incidence: a systematic review and meta-analysis. J Gen Intern Med. 2008 Dec;23(12):2079-86. doi: 10.1007/s11606-008-0787-6. Epub 2008 Sep 20. Review. PubMed PMID: 18807098; PubMed Central PMCID: PMC2596495.

*4:D'Aiuto F, Orlandi M, Gunsolley JC. Evidence that periodontal treatment improves biomarkers and CVD outcomes. J Periodontol. 2013 Apr;84(4 Suppl):S85-S105. doi: 10.1902/jop.2013.134007. PubMed PMID: 23631587.

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