東京都福祉保健局が開催する、難病指定医の指定に係る研修を受講してきました。(写真は会場の明治大学です。)
難病法施行
難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年5月30日法律第50号、難病法)は、2014年5月23日に成立した、難病対策の新しい法律です。2015年1月1日より施行されています。
難病法はこちら。
難病法の目的はこのように定められています。
(目的)
第一条 この法律は、難病(発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるものをいう。以下同じ。)の患者に対する医療その他難病に関する施策(以下「難病の患者に対する医療等」という。)に関し必要な事項を定めることにより、難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保及び難病の患者の療養生活の質の維持向上を図り、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。
拡大された経緯
従来の特定疾患は56疾病でしたが、2015年7月1日から、難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)が 306疾病に拡大しています。
難病対策が拡大された経緯はこちらにあります。一部引用しながら概要をまとめてみます。
難病情報センター | 「2015年から新たに始まる難病対策」
- 医療費助成の対象疾患としては、「診断基準が一応確立し、かつ難治度、重症度が高く、患者数が比較的少ないため、公費負担の方法をとらないと原因の究明、治療法の開発などに困難をきたすおそれのある疾患」として、56疾患が特定疾患治療研究事業(医療費助成事業)の対象となった。
- この56疾患については、患者さんが申請をして担当医が調査票を書き、所定の審査をパスすれば、医療費は公費負担となった。
- 対象とする病気の数はさらに増加し、対象患者数も増加の一途を辿り、平成23年度末の時点では対象患者数は78万人にまで増加。
- 難治性疾患克服研究事業(研究費助成事業)の総予算が舛添大臣(当時)の時代に100億円にまで増額、特定疾患治療研究事業(医療費助成事業)に要する予算は総計で400億円を超える状況に。すなわち、難病研究の4倍にあたる金額が難病医療費助成に必要となる。
- 本事業は都道府県が実施主体であったことから、国の財政悪化に伴って都道府県の超過負担が発生するという事態も発生し、予算事業としての限界を迎えつつあった。
- 公平性の観点より、難病に悩む患者さんとその家族から医療費助成の対象疾患のさらなる拡大と見直しの声も強く上がっていた。
- 新たに施行された難病法によって、難病の患者に対する医療費助成に消費税などの財源が充てられることとなり、安定的な医療費助成の制度が確立。具体的には、医療費の支給に関する費用は都道府県の支弁とし、国はその半分を負担することが明記された。
消費税によって財源が確保されたわけですね。これはありがたいことです。ぜひ大切に、有効活用させていただきたいです。
指定難病とは
指定難病の定義はこのようになっています。
難病は、
1)発病の機構が明らかでなく、
2)治療方法が確立していない、
3)希少な疾患であって、
4)長期の療養を必要とするもの、
という4つの条件を必要としています。指定難病にはさらに、
5)患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと、
6)客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していること、という2条件が加わっています。
難病法や医療費助成については、以下の公的機関の情報をご確認ください。
ここから制度や指定難病 306疾病が載っている、周知用リーフレットもダウンロードできます。
医療費の支給範囲は?
さて、医療費助成が受けられるのはどの範囲までなのかについて、しばしば問題になることがあります。医療機関ごとにその解釈や判断が異なることがあるからです。
難病法ではどのように規定されているのでしょうか。特定医療費の支給について、このように定めています。抜粋引用します。
(特定医療費の支給)
第五条 都道府県は、支給認定(第七条第一項に規定する支給認定をいう。以下この条及び次条において同じ。)を受けた指定難病(難病のうち、当該難病の患者数が本邦において厚生労働省令で定める人数に達せず、かつ、当該難病の診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっていることその他の厚生労働省令で定める要件を満たすものであって、当該難病の患者の置かれている状況からみて当該難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて指定するものをいう。以下同じ。)の患者が、支給認定の有効期間(第九条に規定する支給認定の有効期間をいう。第七条第四項において同じ。)内において、特定医療(支給認定を受けた指定難病の患者に対し、都道府県知事が指定する医療機関(以下「指定医療機関」という。)が行う医療であって、厚生労働省令で定めるものをいう。以下同じ。)のうち、同条第三項の規定により定められた指定医療機関から受けるものであって当該支給認定に係る指定難病に係るもの(以下「指定特定医療」という。)を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該支給認定を受けた指定難病の患者又はその保護者(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六条に規定する保護者をいう。以下同じ。)に対し、当該指定特定医療に要した費用について、特定医療費を支給する。
特定医療費を支給するのは、指定特定医療に要した費用、と規定されています。つまり、指定難病に係る医療を受けたとき、と限定されています。
難病に係るものであれば、当然、特定医療費の支給が認められるでしょう。しかし、指定難病以外の健康問題に対する医療費は原則支給できません。
例えば、指定難病患者が上気道炎となった場合、指定難病と関連があると判断されない限り、特定医療費は支給できません。
もしなされているとすれば、それは拡大解釈となるでしょう。
この拡大解釈について、以前電話で問い合わせしたことがあります。しつこいようですが、東京都にもう一度質問し確認することにしました。
回答は以下のようなものでした。
- 難病に係る医療以外のものについては、原則認められません。
- その範囲について法的に明確な線引きはないのが現状です。
- 保険請求の際に認められるかどうかをまずは判断材料としてみてください。
適用範囲については、法的には規定されていない、ということが確認できました。また、レセプト審査で通りさえすれば、いかようにも拡大解釈されうる、あるいは実際に拡大解釈は許容されている、と感じました。
もちろん、治療費がかさむ難病患者にとっては、ありがたい拡大解釈となるでしょう。医療費助成は多いほうが助かるに決まっています。
しかし、消費税を負担する国民にとっては、税金の使い方については気になるところです。本来の法の趣旨を逸脱して適用することは、厳に慎むべきでしょう。
この拡大解釈が一体どのくらいの支給総額になっているのか、皆目検討がつきません。制度を健全に維持していくためにも、法律の拡大解釈や抜け道をどう管理するのか、よく精査検討すべきでしょう。