薬は認知症の原因になりますか? - 地域医療日誌のつづき記事です。
当初はここまでつづけるつもりもなかったのですが、芋づる式に論文が見つかり、また反響もあるようなので、もう少し書いてみます。
ベンゾジアゼピン系(BZD)は認知症のほかに事故が気になります。特に、転落・転倒による骨折や交通事故などが懸念されます。
ここでは、交通事故について確認しておきましょう。
今回のメタ分析は、症例対照研究のメタ分析とコホート研究のメタ分析の2つに分かれて解析されています。BZD以外の薬も検討されていますが、ここではBZDの結果に絞ってご紹介したいと思います。
メタ分析(Dassanayake, 2011年) *1
症例対照研究のメタ分析
P▶ 交通事故をおこした人の
E▶ 事故前のBZDまたは非BZD睡眠薬、抗うつ薬、オピオイドの使用歴は
C▶ (交通事故をおこしていない人または一般ドライバーに比べて)
O▶ 交通事故の危険因子となっているか
T▶ 害、症例対照研究のメタ分析《結果》★☆☆ *2
BZDについては12研究で検討。交通事故のリスクについてデータが得られた6研究の結果を統合。
交通事故のオッズ比 1.59(95%信頼区間 1.10-2.31)
異質性あり:Cochran Q= 16.20; p = 0.006; I2 = 69.1%
コホート研究のメタ分析
P▶ 18歳以上の成人について
E▶ BZDを使用していると
C▶ BZDを使用していないのと比べて
O▶ 交通事故が多いか
T▶ 害、コホート研究のメタ分析《結果》★☆☆ *3
BZDについては6研究で検討。そのうちデータがえられた3研究の結果を統合 *4。
交通事故の相対危険 1.81(95%信頼区間 1.35-2.43)
異質性あり:Cochran Q= 6.65; p = 0.036; I2 = 70%
症例対照研究ではBZD使用歴があると交通事故が59%多く、コホート研究ではBZD使用歴があると交通事故が81%多い、という一貫した結果となっています。
コホート研究のうち最も規模の大きな研究 *5 について、実数と樹形図でご紹介しておきましょう。
- BZD使用群:265/48769 (0.54%)
- BZD未使用群:11193/3955769 (0.28%)
このコホート研究では、BZD使用群のほうが交通事故が92%多い、という結果となっています。この感覚を実数でもご確認ください。
あとはこの結果をどう捉えるか、という答えのない問いが残ります。
薬で交通事故を起こしやすくなりますか?
- 複数の症例対照研究やコホート研究で、BZD使用歴があると交通事故が多いという、ほぼ一貫した結論が得られている。
- BZDのために、少なくとも交通事故が60-80%多くなっている懸念がある。
- BZDを使用するときには、交通事故のリスクについて十分な説明が必要だろう。
*1:Dassanayake T, Michie P, Carter G, Jones A. Effects of benzodiazepines, antidepressants and opioids on driving: a systematic review and meta-analysis of epidemiological and experimental evidence. Drug Saf. 2011 Feb 1;34(2):125-56. doi: 10.2165/11539050-000000000-00000. Review. PubMed PMID: 21247221.
*2:研究デザインの質を★☆☆低~★★★高の3段階で評価
*3:研究デザインの質を★☆☆低~★★★高の3段階で評価
*4:データが不十分のため除外された研究の中に、BZD群で高い事故発症がみられたものがある
*5:Engeland A, Skurtveit S, Mørland J. Risk of road traffic accidents associated with the prescription of drugs: a registry-based cohort study. Ann Epidemiol. 2007 Aug;17(8):597-602. Epub 2007 Jun 18. PubMed PMID: 17574863.