地域医療日誌

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ベイズの定理でインフルエンザの診断を考える

 
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 鉄は熱いうちに打て、とは言い得て妙です。熱量が高いうちに書いた記事のほうが、少し時間をおいて冷静になった記事よりも、強い思いが込められるような気がします。

 インフルエンザの大流行が過ぎ去ろうとしている今だからこそ、書くべきことがあります。今を逃すと、また来年になってしまいそう、いや、一生書く機会を逃してしまうかも。

 まずはそう、あの忌々しい「インフルエンザの検査」に関することです。

 

ひたすら繰り返すインフルエンザの説明

 診察室には毎日たくさんのインフルエンザ患者がやってきます。忙しく時間のプレッシャーがある中で、ていねいに説明して誤解を解いていく単調な作業は、途方に暮れます。

 説明はだいたい決まっているのですが、最初の難関はインフルエンザ迅速検査 *1 を行うかどうかです。

 ここに大きな誤解があるからです。

 

お粗末な診断スタイル

 日本で主流となっている「インフルエンザの診断スタイル」は簡単です。

インフルエンザ迅速検査

→結果が陽性ならインフルエンザ、陰性ならインフルエンザではない

 

 多くの医療機関では、この診断スタイルを採用していると思います。しかし、これは誤りです。

 さて、この診断方法、どこが間違っているのでしょうか?

 

 

診断は確率

 病気の診断のほとんどは白黒はっきりするものではありません。

 たとえば、インフルエンザウイルスが存在するかどうかを人間が目視で確認することはできません。ウイルスは小さすぎて、ぼくらの目には見えないからです。

 そこで、「間接的な情報」からインフルエンザウイルスが症状に関与しているかどうかを判断することになります。

 直接インフルエンザを確認できれば、「100%の診断」が可能かもしれませんが、それができない限り、診断は「可能性(確率)」になります。

  • 診断は確率である。

 まずはここをおさえておきましょう。

 

ベイズの定理でインフルエンザを考える

 それでは、診断の確率をどのように推測すべきでしょうか。

 ここで「ベイズの定理」を利用します。詳細はそのうちにご説明したいと思いますが、ここではこのように理解しておきましょう。

  • 診断の確率は、頻度検査特性で決まる。*2

 

 診断の確率は「頻度」と「検査特性」で決まるのです。

 頻度とは「診察前の段階での診断確率」(事前確率と呼んでいます)のことです。

 インフルエンザでは流行状況になるでしょう。地域や学校などで流行している場合、頻度が高くなる、つまり診察前の段階での診断確率が高まる、というわけです。

 あたりまえですね。

 

 検査特性とは「検査の感度・特異度」など、臨床研究などで明らかになる指標から算出されます。

 発熱がみられるとインフルエンザの確率が高まります。これは、発熱があるという情報が追加されることによって、インフルエンザの診断確率(事後確率と呼んでいます)が高まるということです。

 どの程度インフルエンザの確率を高めるのか、これを臨床研究の結果からわかる「感度・特異度」という指標を用いて算出します。

 

 ここまでをまとめます。

  • 診断は確率である。
  • インフルエンザの診断は「流行状況」と「検査の感度・特異度」で決まる。

 

検査の感度・特異度

 感度・特異度について、簡単に説明しておきましょう。

  • 感度とは病気の人のうちで、検査陽性となる人の割合のこと。

 感度90%とは、病気の人10人のうち9人が陽性(1人は見逃し=偽陰性と呼んでいます)となる検査のことです。(これはかなり精度の高い検査です。)

 

  • 特異度とは健康な人のうちで、検査陰性となる人の割合のこと。

 特異度90%とは、健康な人10人のうち9人が陰性(1人は過剰診断=偽陽性と呼んでいます)となる検査のことです。

 

 

 感度90%・特異度90%という精度の高い検査で診断した場合であっても、すべての患者に正確な診断がつけられるわけではありません。なぜなら、診断の確率は検査特性だけではなく、「頻度と検査特性で決まる」からです。 

 

 仮に、ある病気の事前確率が50%の患者について考えてみましょう。

 感度90%・特異度90%の検査が陽性の場合、事後確率は90%となります。検査で陰性の場合には、事後確率は10%となります。

 これなら、検査結果が診断を左右することになります。つまり、事前確率が50%のとき、検査が最も有効となるわけです。

 

 ところが、ある病気の事前確率が10%の患者に対して検査陽性の場合、事後確率は50%となってしまいます。

 同様に、ある病気の事前確率が90%の患者に対して検査陰性の場合、事後確率は50%となってしまいます。

 事後確率50%とは、検査したがために、どっちつかずの悩ましい結論になってしまった、ということになります。

 

 ここでまとめると、こういうことになるでしょう。

  • 事前確率が著しく低い(病気の可能性が低い)ときには、検査の意義は低い。
  • 事前確率が著しく高い(病気の可能性が高い)ときにも、検査の意義は低い。
  • 検査は迷ったときに最大の効果を発揮する。

 

 インフルエンザの場合、事前確率はインフルエンザの流行状況と同じことですから、流行状況によって検査の意義が変わってくる、ということになるわけです。

 

つづく

*1:あの鼻に綿棒を入れられる、嫌な検査のことです。

*2:専門用語では「事後オッズ=事前オッズ × 尤度比」と表現されます。

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