地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

【かぜの研究】抗ヒスタミン薬はかぜに効きますか?

f:id:cometlog:20200823172704j:plain*1

 

 かぜ(かぜ症候群、急性上気道感染症)は日常で最もよくみられる病気のひとつです。かぜについての研究結果は、最近でも少しずつ発表されています。

 ここでは、かぜについての新しい医学的知見をふまえ、医療のかかり方について一緒に考えていきたいと思います。

 

 尚、この記事は「地域医療ジャーナル」2015年3月号~2019年2月号に掲載された連載「かぜの研究」記事をもとに、加筆再編しています。

 バックナンバーはこちら。

cmj.publishers.fm

 

 この記事についても、今後順次更新していく予定です。

 

質問

 抗ヒスタミン薬はかぜに効きますか?

 

抗ヒスタミン薬の効果を検索してみる

 【かぜの研究】総合感冒薬はかぜに効きますか? - 地域医療日誌では、主にアセトアミノフェンや抗ヒスタミン薬が配合された合剤について、効果を確認しました。

 微妙な結果となっていましたので、おそらく抗ヒスタミン薬単独で検討しても同じ結果ではないか、と予想されます。

 ぼくはひどい鼻炎がみられる方に、抗ヒスタミン薬を提案することがあります。症状によって効果がみられる可能性はないでしょうか?

 検索してみたいと思います。まずは疑問の定式化から。

  • かぜの人が
  • 抗ヒスタミン薬を服用すると
  • プラセボに比べて
  • 治癒までの期間が短いか

 

 治療の指標(アウトカム)は治癒までの期間以外にも設定が可能です。合併症が少ない、仕事や学校を休む日数が少ない、などが挙げられるでしょうか。

 治癒までの期間というアウトカムでは、自覚症状で判断することになりますから、対照群は「投与なし」よりも「プラセボ」を使ったほうが、「薬をのんだからよくなるはず」のような、バイアスの影響を受けにくくなるはずです。

 

 さて、検索してみましょう。検索はPubMedを使ってみます。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 トップページから PubMed Clinical Queries をクリック。

 検索式には「common cold antihistamine」と入力し、Clinical Study Categoriesのカテゴリーは「Therapy」、スコープ(絞り込み)は「Narrow」を選択してみます。

Clinical Study Categories
Category: Therapy
Scope: Narrow
Results: 33


 ここで33件の論文に絞り込まれました*2。33件くらいなら、タイトルを流し読みはできそうです。

 その隣にある「Systematic Reviews」には、システマティック・レビューの検索結果が表示されています。

Systematic Reviews
Results: 12

 

 こちらは12件ヒットしました*3。検索結果リストをざっと確認すると、以前紹介したメタ分析(De Sutter, 2012年*4)もひっかかっています。

 今回は同じ著者による、2015年のコクランのメタ分析*5を確認しておきたいと思います。

 

1-2日目に効果があるだけ

 この論文の抄録はこちらをご覧ください。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 論文抄録を順に確認していきましょう。まずは論文のPECOを確認します。

OBJECTIVES:
To assess the effects of antihistamines on the common cold .

SELECTION CRITERIA:
We selected randomised controlled trials (RCTs) using antihistamines as monotherapy for the common cold. We excluded any studies with combination therapy or using antihistamines in patients with an allergic component in their illness.

 

 このメタ分析では、感冒の人に抗ヒスタミン薬単独で治療すると、その効果はどうかを検討したランダム化比較試験を採用した、というところまではわかります。総合感冒薬などの合剤やアレルギー性鼻炎などの人の研究は含めていないようです。ここの部分では具体的なアウトカムについては確認できません(あとで出てきます)。

MAIN RESULTS:
We included 18 RCTs, which were reported in 17 publications (one publication reports on two trials) with 4342 participants (of which 212 were children) suffering from the common cold, both naturally occurring and experimentally induced. The interventions consisted of an antihistamine as monotherapy compared with placebo. In adults there was a short-term beneficial effect of antihistamines on severity of overall symptoms: on day one or two of treatment 45% had a beneficial effect with antihistamines versus 38% with placebo (odds ratio (OR) 0.74, 95% confidence interval (CI) 0.60 to 0.92). However, there was no difference between antihistamines and placebo in the mid term (three to four days) to long term (six to 10 days).

 

 結果の部分にプラセボと比較したことが書かれています。また、アウトカムが全般的症状の重さとなっており、短期(1-2日)、中期(3-4日)、長期(6-10日)で評価していることがわかります。

 

 この論文の概要をまとめてみます。

メタ分析(De Sutter 2015)*6

研究の概要

 感冒の小児または成人が抗ヒスタミン薬を単独で服用すると、プラセボに比べて全般的症状の重症度と持続期間は改善するのかを検討した、治療についてのランダム化比較試験のメタ分析。18のランダム化比較試験の結果を統合(4,342人、うち小児212人)。

主な結果

 1-2日目での症状改善(3研究、1,490人の成人)は抗ヒスタミン薬群では45%、プラセボ群では38%と抗ヒスタミン薬群で多い傾向がみられた(効果なしのオッズ比 0.74, 95%信頼区間 0.60, 0.92)。

 3-4日目での症状改善はオッズ比 1.19(95%信頼区間 0.67, 2.11、1研究)、6-10日目での症状改善はオッズ比 0.71(95%信頼区間 0.41, 1.22、3研究)とほぼ同等であった。

 副作用については、オッズ比 1.18(95%信頼区間 0.97, 1.44、9研究、2590人)とやや多い傾向がみられた。

 

 このメタ分析からは、抗ヒスタミン薬は服用1-2日目という短期間での症状改善効果は見込めますが、それ以降は効果がないばかりか、やや副作用が多くなる傾向がみられる、ということがわかります。

 短期的な効果を狙うなら選択肢のひとつになるでしょう。しかし、症状が長引かないようにするという効果は期待できないことになります。

 さらに本文からは、鎮静作用のある抗ヒスタミン薬は2-4日目における鼻汁やくしゃみを有意に改善し、鎮静作用のない抗ヒスタミン薬では3-5日目における鼻閉を悪化させる、という結果となっています。

 この結果は臨床経験と一致するものです。

 アレルギー性鼻炎のないかぜについては、どうしても一刻も早く症状をとりたい場合に限り、鎮静作用のある抗ヒスタミン薬が選択肢のひとつとなりえますが、副作用に注意しながら短期間だけ使う、という戦略が妥当でしょう。

 

妊婦に対して安全?

質問

 妊娠しているかもしれないのですが、抗ヒスタミン薬は安全ですか?

 

 さて、妊娠中の嘔気、じんま疹、アレルギー疾患にも使われることのある抗ヒスタミン薬。安全性は確認されているのでしょうか。

 疑問はこのようになるでしょう。

  • かぜの妊婦が
  • 抗ヒスタミン薬を服用すると
  • プラセボに比べて
  • 有害事象は多くなるのか

 

 2017年にメタ分析がありました。確認してみましょう。

メタ分析(Etwel, 2017)*7

研究の概要

 妊娠第1三半期中の妊婦が抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)を服用すると、副作用が多くなるのかを検討した、システマティックレビュー・メタ分析。

主な結果

 37研究が該当。複数のコホート研究によると、抗ヒスタミン薬によって主要な先天性異常(major malformation)のリスクは高くなかった(オッズ比 1.0, 95%信頼区間 0.98, 1.16)。ケースコントロール研究についても同様の結果であった(オッズ比 1.05, 95%信頼区間 0.90, 1.23)。

 自然流産(オッズ比 1.00, 95%信頼区間 0.83, 1.20)、早産(オッズ比 0.96, 95%信頼区間 0.76, 1.20)死産(オッズ比 1.23, 95%信頼区間 0.48, 3.18)、低体重児(オッズ比 1.20, 95%信頼区間 0.63, 2.29)いずれについても、抗ヒスタミン薬によって多くならなかった。

 

 

 妊娠中の服用については、第1三半期に服用したとしても、胎児や妊娠経過に悪影響はなさそうです。

 

 いずれにしても、かぜに対しては必要性や効果と害のバランスをよく検討の上、服用するかどうか決めるのがよいでしょう。

 

ここまでのまとめ

  • かぜに対する抗ヒスタミン薬の効果は小さく、せいぜい1-2日程度まで。それ以降は効果も小さく、副作用が多くなるため、あまりおすすめしません。
  • 妊娠中に服用しても、今のところ悪影響はなさそうです。

 

www.bycomet.tokyo

*1:image: Priusさん

*2:2016年5月初出原稿の時点

*3:2016年5月初出原稿の時点

*4:De Sutter AI, van Driel ML, Kumar AA, Lesslar O, Skrt A. Oral antihistamine-decongestant-analgesic combinations for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15;2:CD004976. doi: 10.1002/14651858.CD004976.pub3. Review. PubMed PMID: 22336807.

*5:De Sutter AI, Saraswat A, van Driel ML. Antihistamines for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 29;11:CD009345. doi: 10.1002/14651858.CD009345.pub2. Review. PubMed PMID: 26615034.

*6:De Sutter AI, Saraswat A, van Driel ML. Antihistamines for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 29;11:CD009345. doi: 10.1002/14651858.CD009345.pub2. Review. PubMed PMID: 26615034. [abstruct]

*7:Etwel F, Faught LH, Rieder MJ, Koren G. The Risk of Adverse Pregnancy Outcome After First Trimester Exposure to H1 Antihistamines: A Systematic Review and Meta-Analysis. Drug Saf. 2017 Feb;40(2):121-132. doi: 10.1007/s40264-016-0479-9. PMID: 27878468. [abstruct]

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