- 風疹5年ぶりの流行
- 風疹ワクチンの効果はあるのか?
- 2012年のコクラン「研究なし」
- 2013年4月に発表されたふたつの研究
- 全員を接種対象にすべき
- 2012-13年にCRSが多数発症
- ワクチンの費用効果は
- 日本は感染症対策後進国
- なぜ日本の医療政策はエビデンスを無視するのか?
- 風疹の感染予防対策はこちら
風疹5年ぶりの流行
風疹が流行しています。東京都の流行状況はこちら。
2013年にも同じような記事 *1 を書いていますから、5年ぶりの流行ということでしょう。
当時は広報の効果もあってか、風疹ワクチンの需要が一時的に急増しましたが、残念ながら5年後の流行は予防できませんでした。
このブログは、風疹についての基本情報を提供することが目的ではありませんので、そのような情報が必要な方はこちらをどうぞ。
風疹ワクチンの効果はあるのか?
さて、風疹ワクチンはどのくらい効果があるのでしょうか?これだけアナウンスされているのですから、確固たる効果が証明されているのでしょう。期待しながら調べてみました。
一般的な記載はこのようになっています。
国立感染症研究所
Q 2-7 風疹の予防接種をうけると風疹にはかからないと考えてよいでしょうか。
A すべての薬が100%の効果をもつとは限らないように、ワクチンの効果も100%とはいえません。これまでの報告を総合すると、風疹を含むワクチン(今は、原則麻疹風疹混合ワクチンが使われています)を1回接種した人に免疫ができる割合は約95%、2回接種した人に免疫ができる割合は約99%と考えられています。現在は、2回の接種が定期接種として実施されており、より高い効果が得られています。
Q 2-8 米国、韓国、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパ諸国など、麻疹・風疹の予防接種を2回行う国が少なくないとききました。これはなぜでしょうか。
A 麻疹・風疹の予防接種は非常に有効な予防手段ですが、一度予防接種を受けた人に免疫がつかないことがあります。麻疹・風疹の予防接種を2回行なうことによって、これらの人にもほぼ確実に免疫を与えることができ、社会全体が麻疹・風疹に対して強い抵抗性を持つことができます。日本でも2006年度から2回接種制度が導入されており、2008年度~2012年度までの5年間は中学1年生あるいは高校3年生相当年齢の人にも、定期接種として接種されました。 なお、海外ではMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しん混合生ワクチン)を使用する国が増えています。
2012年改定版に比べて情報が追加されているようですが、いまいち歯切れの悪い説明となっています。そもそも、「免疫のできる割合」は風疹発症予防が証明されてわけではない代用のアウトカムです。
そこで、ワクチンでどのくらい風疹の発症が予防できるのか、二次資料を使って検索してみました。
2012年のコクラン「研究なし」
いきなり2012年のコクランのメタ分析にたどり着きました。網羅的に検索されているため、概ね代表的な臨床研究は含まれていると思います。(コクランだからといって盲信は慎みたいと思います。特に新しいコクランは。)
論文はこちら。
Demicheli V, Rivetti A, Debalini MG, Di Pietrantonj C. Vaccines for measles,mumps and rubella in children. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb15;2:CD004407. doi: 10.1002/14651858.CD004407.pub3. Review. PubMed PMID:22336803.
小児に対するMMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹)ワクチンの効果を検証したシステマティックレビューです。麻疹、流行性耳下腺炎、風疹それぞれについて記載されています。
そこに驚きの記述が。
Rubella
We found no studies assessing the effectiveness of MMR vaccine against clinical rubella.
MMRワクチンに関しては、風疹に関する効果を検証した研究はなかった、とのことです。コクランでさえ見つけられなかったのなら、もしかすると研究自体がないのでしょうか。
それとも、MRワクチンや風疹ワクチン単独では見つけられるのでしょうか?
2013年4月に発表されたふたつの研究
PubMed "rubella vaccine" で Clinical Queries検索したところ、2013年にシステマティックレビューが2つ発表されていました。
ひとつのシステマティックレビューは、風疹ワクチンの効果を検証したシステマティックレビュー。さきほどのコクランとは違い、観察研究まで含めています。
今必要な情報は、抗体価ではなく、風疹の発症や先天性風疹症候群の発症を検討した研究です。まさにその疑問に答えるものでした。
システマティック・レビュー(2013年)
Mongua-Rodriguez N, Díaz-Ortega JL, García-García L, Piña-Pozas M,Ferreira-Guerrero E, Delgado-Sánchez G, Ferreyra-Reyes L, Cruz-Hervert LP,Baez-Saldaña R, Campos-Montero R. A systematic review of rubella vaccinationstrategies implemented in the Americas: impact on the incidence andseroprevalence rates of rubella and congenital rubella syndrome. Vaccine. 2013 Apr 19;31(17):2145-51. doi: 10.1016/j.vaccine.2013.02.047. Epub 2013 Mar 5.PubMed PMID: 23470237.
研究の概要
小児または成人に対して、風疹予防として小児から成人までの全員にワクチンを接種すると、小児のみまたはリスクのある人のみにワクチン接種するのに比べて、風疹や先天性風疹症候群の発症は少ないか、を検討した予防に関するシステマティックレビュー。
主な結果
14の観察研究あり。
小児のみのワクチン Vaccination strategy for children
- 風疹発症が23.64~99.62%減少し、流行周期が5-9年毎から5-12年毎に延長した。
- 先天性風疹症候群について検討した研究はサンパウロで実施されたひとつだけで、開始後1年で93.98%減少した。
- しかし、この戦略では若年成人にアウトブレイクがみられたとのコスタリカの報告があり、十分ではない。
リスクのある成人に追加 Combined vaccination strategy with a risk approach for adults
- ブラジルでの報告では、すぐに風疹が95.01%減少、先天性風疹症候群が100%減少した。
- しかし、7年後にアウトブレイクがみられ、(ワクチンを受けていなかった)男性の発症が5.54倍多かった。結果的に風疹発症は累積で4%しか減少していない。
成人全員に追加 Combined vaccination strategy with a universal approach
- メキシコの報告では全員への接種を開始して1年で劇的な風疹発症減少がみられた。先天性風疹症候群が98.93%減少した。
- コスタリカでも先天性風疹症候群が100%減少した。
全員を接種対象にすべき
日本がこれまで行なってきたように、小児のみ、または女性のみに対して行われてきた風疹ワクチン戦略が不成功に終わったことは、諸外国の事例から明らかになっていることでした。
そして、小児だけではなく成人全員を接種対象とすることで、風疹発症だけではなく先天性風疹症候群までも劇的に減少させることに成功しています。
それも直後に。
先天性風疹症候群が100%減少ということは、発症ゼロになっているのです。
このシステマティックレビューから結論づけられることは、ひとつだけ。
直ちに全員を対象としたワクチン接種助成をすべきでしょう。
2012-13年にCRSが多数発症
2012-13年の風疹流行では、残念ながら先天性風疹症候群(CRS)が多数発生しています。諸外国や国内での過去の発生数を見ると、かなり深刻な事態だったことがわかります。
国立感染症研究所の資料によると、発症例は1999年4月からの2013年3月までに27例が報告。ピーク時の2004年には10例の報告がみられましたが、その後は減少し、2005年以降は毎年0〜2例で推移していました。
しかし、2012年には4例、2013年では32例も発生しています。
ワクチンの費用効果は
それでもCRSの発症は少ないのだから、ワクチンに費用をかける必要があるのか? という疑問に答える研究が、もうひとつのシステマティックレビューです。医療経済分析になっています。
システマティック・レビュー(2013年)
Babigumira JB, Morgan I, Levin A. Health economics of rubella: a systematic review to assess the value of rubella vaccination. BMC Public Health. 2013 Apr29;13(1):406. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 23627715.
27の研究が紹介されていますが、CRSの診断や治療にかかる費用は重く、1例当たり年間$4,200~$57,000(2012年米国ドル)、生涯$140,000と試算されています。
費用便益分析、費用効果分析・費用効用分析において、いずれも小児とリスクのある成人に対するワクチンは費用効果が高いという結果になっています。
このシステマティックレビューでは、成人全員に接種した場合の分析は含まれていないようです。
日本は感染症対策後進国
この論文の中にこのような記述があります。
Most cases of rubella and congenital rubella syndrome (CRS) occur in low- and middle-income countries.
Although WHO published a position paper to guide introduction of RCV into the national childhood immunization schedules of member countries in 2000 [5], only a few low-income countries have included the vaccine in their schedules. <中略> Of the 165 reported cases of CRS in 2009, AFR, with 47, had the highest number.
CRSのほとんどは中~低所得国で発生しています。そして、2000年(平成12年)のWHO方針説明書を守らなかった低所得国からの発生が多いことを指摘しています。
2009年に発生したCRS 165例のうち、アフリカから47例発生がみられています。
わが国は高所得国でありながら、対策が不備なためにCRSを発生させてしまいました。感染症対策後進国という、不名誉な立場に追いやられたのです。
なぜ日本の医療政策はエビデンスを無視するのか?
エビデンスが示すことは、抗体価をはかることでも、小児や妊娠可能女性に限定した対策でもありません。
全員を対象としたワクチン接種です。
あれから5年、ふたたび風疹が流行しています。
エビデンスに基づかない医療政策によって、誤った選択を繰り返しています。
日本の風疹対策は不適切です。いいかげんにしてほしい。
なぜこうなったのか、十分な検証作業は必須ではないでしょうか。
風疹の感染予防対策はこちら
風疹の感染予防対策はこちらをごらんください。
*1:風疹はワクチンで予防できますか? - 予防接種の効果と害
この記事は2013年のリライト記事です。