活動報告です。
先日、沖縄でこれまでの活動をまとめる機会をいただきました。このブログやウェブマガジンからはじめた気ままな活動をここまで広げてこれたのは、とてもありがたいこと。
読者のみなさまをはじめ、関係者のみなさま方に感謝いたします。
音楽で空気が変わる
那覇市で有志の活動に参加しました。施設の認知症患者に音楽を聞かせる取り組みを紹介したドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」の内容をふまえ、現場でどう取り組んでいるのかを「音楽が医療を変える?」をテーマに、簡単にご紹介させていただきました。
これまで数か月にわたって音楽療法士が同行する訪問診療を試行的に行ってきましたが、音楽が入ることで雰囲気ががらりと変わることがあります。
医療の「空気が変わる」という表現がぴったりです。
言葉ではうまく表現できない(個人情報もあるので表現しにくい)のですが、おそらく体験した人にはその感覚をわかっていただけるでしょう。
こうした体験を積み重ねていくことによって、そしてそれを言語化していくことによって、医療現場が変わっていくのではないか、そう思えます。
大きな声でかき消されないように
アルツハイマー病の診断は1996年からうなぎ上り *1。
しかし、認知症治療薬の効果は期待するほどではありませんでした。新薬の開発も絶望的です。(このことは なぜ今、認知症に音楽なのか? - 地域医療日誌 などの過去の記事をご参照ください。)
ここまで言うと、医療者からの大きな声でかき消されます。「薬を使わないという信念ですね」と。ありがちです。なおさら、一般の人には誤解されがちです。
そうではありません。
必要な薬は使うべきです。「効果がないものは使わない、効果があるものは使う。」ただそれだけのことです。
効果があるかどうか、裏(エビデンス)をとりましょう。臨床家としてあたりまえのことを、一貫して主張していきたい。読者のみなさんにはスタンスを理解していただけることでしょう。
パーソナルソングを高齢者に
薬を使えないとすれば、ぼくらに一体何ができるか。ぼくらの役割は何か。そのヒントが「パーソナルソング」に描かれていました。
施設に居住する認知症高齢者に、個人の思い出の曲を聴いてもらおうという、音楽ケアプログラムです。
この映画で紹介されている米国発の音楽ケア「Music & Memory」を、国内で導入する活動に協力しました。NPO法人 エコロジーオンライン(栃木県佐野市)が3か月間にわたりトライアル事業として実施した活動です。
このトライアル事業は残念ながら終了となりましたが、現場の実践からいろいろなことを学ぶことができました。次につなげるためには、収穫の大きな活動でした。
この成果の一端は 第15回 日本質的心理学会(2018年11月)にて発表しました。いずれ、ここでもご紹介できるかもしれません。
音楽っていいもの?
音楽っていいものだ、みな口を揃えて言います。しかし、認知症患者に対する音楽療法は、医学的な効果ははっきり認められていません。
それは、医学的に音楽の力をまだ現象としてうまくとらえられていないだけなのかもしれません。
人々の主観的な感性を信じたい、そう思いながらも、このテーマで探求をつづけたいと思います。
現象をどうとらえるか
とりとめもないですが、まだ文章に言語化できていない収穫をつぶやきとして、ここに書き留めておきたいと思います。
- 現象をとらえる力が衰えると、認知機能は低下する。
- コトバを介さず、現象から現象へ。
- 音楽を聞きたい人には聞ける自由を、聞きたくない人には聞かなくていい自由を。
- コミュニティは関心からつくられる。
- 小さな世界をつくろう。
- 地理的な距離は乗り越えられる。
- 楽しくつながろう。
- 認知症をおそれるな、楽しく老けよう。
現象をどうとらえるか、深く考えていくべきだろうと、再認識しました。
医療の場にいると、診断は医学的なものだと感じますが、決してそうではなく、社会的に決まっているものです。
医学的な方法だけにこだわっていると、治療の選択肢もおのずと狭くなっていくことでしょう。
もし、臨床家としてジェネラリストと名乗るのであれば、疾患や臓器別、診療科などという細部にこだわるのではなく、医学を乗り越えて考えられるかどうかという「真の力量」を身につけたいと思います。
臨床家として、これからも現象の探求をつづけます。
*1:患者調査によると、年間1万人程度でずっと推移していたアルツハイマー病患者数が、1996年を境に急上昇。2011年には36.6万人に。
厚生労働省によると、2020年の認知症患者数推計 292万人だったのが、最近の資料では600万人以上になっています。