地域医療日誌

新しい医療のカタチ、考えます

それでも日本人だけは大丈夫?

 

低炭水化物食で死亡が多くなる

 以前取り上げたテーマの追跡記事です。少し前になりますので、まずはおさらいをしておきましょう。

 一時的にかなりのアクセスをいただいたこちらの記事です。

www.bycomet.tokyo

 一部引用します。

 このメタ分析では、最も少ない炭水化物食の人を、最も多い炭水化物食の人に比べたリスクを比較しています。それにしても、総死亡が31%も多くなる、というのは気になる結果です。

やはり低炭水化物食で総死亡が多くなっていた! - 地域医療日誌

 

 メタ分析からは、低炭水化物食で総死亡が多くなっていたことがわかりました。

 さらにこちらの記事へまとめています。

www.bycomet.tokyo

  • ぽっちゃりは長生き。
  • ダイエットは寿命を縮める可能性がある。
  • 低炭水化物食はダイエットがうまくいく。
  • よって、低炭水化物食は寿命を縮める可能性がある。
それでも体重はへらしたい? - 地域医療日誌

 

 低炭水化物食によって体重は減っても寿命を縮める可能性がある、ということがわかりました。

 

 こうした内容には反論もあるでしょうか。調べてみました。

 

 

日本人のデータから

 代表的なものとしては、2014年に日本人のコホート研究が発表されています。タイトルの通り、29年間の追跡調査の結果です。この論文を無視するわけにはいかないでしょう。

 あらかじめ調査開始時に詳細な食事内容を聞き取りしていたために解析が実現したと思われます。

 日本人ではどのような結果になるでしょうか。

コホート研究(Nakamura, 2014年) *1

研究の概要

 ランダムに選択した調査地域に住む30歳以上の日本人について、低炭水化物食(低炭水化物食スコアが高い)なら心血管死亡や総死亡は多くなるかを検討したコホート研究。

 

主な研究結果

 9200人(56%女性、平均年齢51歳)、平均29年間の観察期間で224,610人年が対象。観察期間中の心血管死亡は1,171人(女性52%)、総死亡は3,443人(女性48%)。

 低炭水化物スコア10分位のうち、スコアが最も高い群を最も低い群と比べたときの調整ハザード比 *2 は以下のとおり。

心血管死亡の調整ハザード比
 女性のみ:0·60 (95% CI 0·38, 0·94; P(trend) = 0·021)
 男女:0·78 (95% CI 0·58, 1·05; P(trend) = 0·079)

総死亡の調整ハザード比
 女性のみ:0·74 (95% CI 0·57, 0·95; P(trend) = 0·029)
 男女:0·87 (95% CI 0·74, 1·02; P(trend) = 0·090) 

 

 日本の大規模コホート研究のひとつ、NIPPON DATA80 (National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease and Its Trends in the Aged 1980)からの報告でした。

 

女性でやや総死亡が少ない傾向?

 この結論によると心血管死亡および総死亡については、低炭水化物食の女性のみで少なかった、という結果になるでしょう。

 

 しかしこの原著論文、特に結果の表を見ていただくとわかるのですが、ぼくは以下の理由からこの結論には若干の疑問があります。

  • 低炭水化物食スコア10分位では、最高位(Decile 10)と最低位(Decile 1)の比較以外では有意差がないこと。
  • さらに有意差は女性のみであること。
  • 10分位は人数で分けられていると思われますが、偏りが否めないこと。(Decile1では0-4の5スコア、Decile10では27-30の4スコアが集計されているが、その他のdecileでは3スコアの区分となっている。)
  • スコアが高くなるほどハザード比が低下するという傾向はみられず、結論は当てはまらない部分があること。

 

 まあ、少なくとも低炭水化物食で心血管死亡や総死亡が少なくなる、という結論にはぼくは賛同できません。

 

 日本人だけは大丈夫かもしれない、という淡い期待は持ちたいところです。しかし、海外の恐ろしい報告を目にしますと、この論文だけから安全です、と断言する自信がぼくにはありません。

 

これからどうするか

 ということで、この論文を確認した上でもなお、結論はこれまでと同じです。

 低炭水化物食を安易に勧めるわけにはいきません。

 短期的には減量できる、などの代用のアウトカムで効果があるかもしれません。しかし、長期的には健康に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。

 このあたりをよく十分に理解しておく必要があるでしょう。

 

*1:Nakamura Y, Okuda N, Okamura T, Kadota A, Miyagawa N, Hayakawa T, Kita Y, Fujiyoshi A, Nagai M, Takashima N, Ohkubo T, Miura K, Okayama A, Ueshima H; NIPPON DATA Research Group. Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80. Br J Nutr. 2014 Sep 28;112(6):916-24. doi: 10.1017/S0007114514001627. PubMed PMID: 25201302.

*2:Cox proportional-hazards model.

Variables were age and deciles of diet scores.
 and BMI (five categories divided at 18·5, 23, 25 and 30kg/m2; 18·5–23 kg/m2 : a reference), hypertension, cigarette smoking (never-smokers, ex-smokers, and three categories of current smokers divided at twenty and forty cigarettes per d; never-smokers: a reference) and alcohol consumption (ex-drinkers, current drinkers, and never-drinkers; never-drinkers: a reference)
 and serum total cholesterol and blood glucose concentrations (standardised to have the mean at 0 (SD1) ) and serum creatinine concentrations (divided at the 75th percentile, 10mg/l).
 and total dietary fibre intake, Na:Kratio and employee classes (executive, professional and others; others: a reference).

男女についてはこれに性別を加えたもの。

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